Q 口腔顔面痛とはどんなものですか。

A 口腔顔面痛とは、簡単に言うと、口の中やあご、顔などに発生する痛みのことをすべて含みます。歯医者さんはむし歯や歯周病によって痛くなる、歯の痛みや歯ぐきの痛みなどは良く知っています。 しかし、口腔顔面痛の外来で私たちが主に診療をしているのは、虫歯や歯周病などの病変がないにもかかわらず、口の中や舌、あごの関節や筋肉、あるいはその周辺や顔面に痛みがあり、なかなか原因がわかりにくい患者さんです。

 

Q 具体的にはどんな病気がありますか。

A 外来によっては少し患者さんのタイプが違うかもしれませんが、私たちの外来で一番多くおいでになるのは顎関節症(次項目参照)の患者さんです。さらに、舌がヒリヒリする舌痛症の方、三叉神経痛という顔面の神経痛の方、片頭痛や群発頭痛といった頭痛の方、口のまわりや顎が慢性的に痛むが調べてもなかなか原因となる病名のはっきりしない特発性の歯痛や顔面痛の方などです。

 

Q 顎関節症とはどんなものですか

A  顎関節症ですが、まずは口を開け閉めして耳の前に指をあてると前後に動くところに顎関節を確認できます。顎関節症は、その耳の前にある顎関節自体に異常があるものと、顎を動かす筋肉に痛みや違和感があるものに大別されます。
 あごの関節自体に異常があるときは、「顎が痛い」「口が開かない」「あごから音がする」等の症状があり、エックス線検査やMRI検査を元に治療方針を決定します。
 筋肉に痛みがあるときは、「あご全体が痛い」「仕事や何かに集中した後に痛くなる」「朝起きるとあごの疲労感がある」等の症状があり、基本的にはマッサージ、ストレッチなどの理学療法や、日中の噛みしめ等習癖を減らす認知行動療法で対応し、必要に応じて口腔内装置や薬物療法を行います。
急性の症状であれば、予後は大変良いのですが、メンタルな問題が関わってくると症状が長引いて慢性疼痛になる方もいらっしゃいます。

 

Q 舌痛症とはどんなものですか

A 舌痛症とは、60歳以上の女性に多くみられる舌のヒリヒリ、ピリピリ感を訴えられる状態です。舌にカンジダ菌という細菌が存在していないか、癌になる可能性がある細胞がないかを調べる細胞診検査や、貧血やビタミン不足などの全身疾患の検査を行い、まずは舌に痛みが出る原因を調べます。しかし原因がはっきりとわからない舌痛症が多くあります。その場合は、症状の強さに応じて、処方や経過観察を行っていきます。神経自体の痛みであることやメンタルな問題が原因ともいわれますが、命にかかわるような怖い病気ではないことはわかっています。食事の際には症状を感じることがなかったり、何かに集中しているときは症状を感じなかったりする方も多いので、患者さんの生活上の深刻度によって治療の方法も変わってきます。

 

Q 三叉神経痛とはどんなものですか

A 顔の感覚を感じる神経が根元のところで血管などに圧迫されることで、顔に触れると電気が走るような痛みが出ます。顔を洗ったり、ひげを剃ったりする時に、電気が走るような瞬間的な激痛が生じます。齢をとるとともに神経を圧迫している血管が硬化して、ある年齢から症状が出てくるので、高齢者に多いです。症状が軽度であれば特効薬があり、この薬は歯科医師も処方します。そのまま症状が改善されると良いのですが、副作用で薬が飲めなかったり、長期間の服用で薬が効きづらくなった場合などは、脳神経外科による手術の適応になります。

 

Q 非原性歯痛とはどんなものですか

A 非歯原性歯痛は歯に原因がないにもかかわらず歯に痛みを感じるものをいいます。原因となる病気がたくさんあります。歯の近くの筋肉のコリのことが多いのですが、三叉神経痛や、頭痛、蓄膿症、心臓の病気、また非常に稀ですがガンの転移が原因であったりすることもあるので注意が必要です。他にも脳から歯までの間の神経が過敏になってしまっている場合などもあります。治療は、口腔外科や脳神経外科などとの連携が必要になる場合があります。

非歯原性歯痛とは? : https://jorofacialpain.sakura.ne.jp/?page_id=3129 
(非歯原性歯痛ポスターはダウンロード可能です。)

 

Q 実際の診察はどのようなものでしょうか

A まず、問診で患者さんの現在の症状や今までの経過、痛みの強さ、生活環境などについて詳しく伺います。その後、痛みのある部位だけでなく周辺の顔や頭部の診察を行っていきます。必要があればレントゲンなどの画像検査や感覚の検査を行います。痛みのある部位や原因と考えられる部位に麻酔をすることもあります。すぐに原因がわかる場合もありますが、経過をみているうちに原因が明確になってくる場合もあります。また、顔に痛みを持っている患者さんでは、歯科だけでなく耳鼻咽喉科、頭頚部外科、内科、脳神経外科、精神科などとの連携が必要になる場合があります。

 

Q 口腔顔面痛で困ったら

A 口腔顔面痛は、鏡ですぐ見ることができる場所が痛くなって、頭や顔といった命に直結する場所に痛みを感じるので、皆さん不安が大変強いようです。一方で歯科医師はう蝕や歯周病の専門家ですが、それ以外の疾患は日頃あまりみることはないのでそれほど詳しいわけではありません。もし皆さんが口の周りや顔の周りに痛みを感じたら、まずは近隣の歯科医院に行って相談してください。歯や歯ぐきの病気は診てもらえると思います。そして必要ならば、大きな病院や大学病院を紹介してもらいましょう。なかなか原因が分からない場合には、エックス線やMRIなどの画像による検査を受けることをお勧めします。慢性の痛みがあるということは、深刻な病気が隠れていることがありますから、しっかりと検査をして、大事に至らないようにしましょう。
 また、自分の気がつかないところで、メンタルなことが原因で痛みがなかなか改善されないこともあります。深刻な病気でないことが確認されたら、ゆっくり話をきいてくれる環境で診察を受けて、結果を急がず、痛みを完全にとることを目標にせずに、痛みが少しくらいあっても、豊かな生活を送ることを目的に治療を受けましょう。
 口腔顔面痛学会の専門医は、日本口腔顔面痛学会のホームページに掲載されていますので、参考になさっていただければ幸いです。

口腔顔面痛専門医のいる施設:https://jorofacialpain.sakura.ne.jp/?page_id=2959


日本大学松戸歯学部付属病院 口・顔・頭の痛み外来の小見山 道(こみやま おさむ)
日本大学松戸歯学部顎口腔機能治療学分野 
日本大学松戸歯学部付属病院 口・顔・頭の痛み外来
文責 (小見山 道/日本口腔顔面痛学会指導医 常任理事)