非歯原性歯痛とは?

 

1.  筋・筋膜痛による歯痛
   【痛みの特徴】 数日~数週間前から,軽度の疼くような鈍い痛みが歯に生じている.どの歯が痛いのかよくわからない.
           痛みは日常生活には支障はない.

2.  数秒間発作的に生じる歯痛(発作性神経障害性疼痛による歯痛)
   【痛みの特徴】 顔面や喉の瞬間的な激痛,電気が走り抜けるような,刺されるような.うずくまる様な痛み.片側性.

3.  歯科治療後に長引く痛み,帯状疱疹に伴って生じる歯痛(持続性神経障害性疼痛による歯痛)
   【痛みの特徴】 ある日突然,または歯科治療後から,24時間間断なく続く痛みが歯に発現した.どの歯が痛いか,はっきりわかる.

4.  神経血管性頭痛による歯痛(群発頭痛や片頭痛などに伴って生じる歯痛)    
   【痛みの特徴】 歯や顔面に発作性の痛みが生じ,数時間持続して消失する.発作時以外に痛みはない.

5.  上顎洞疾患による歯痛(上顎洞の病気により生じる歯痛)
   【痛みの特徴】 数日前から上顎の奥歯に持続性の痛みが生じている.通常片側性.

6.  心臓疾患による歯痛
   【痛みの特徴】 歩いたり運動したりすると下顎に痛みが生じる.痛みは10分ほどで消失する.両側性のことが多い.

7.  精神疾患または心理社会的要因による歯痛
   【痛みの特徴】 うつ病や不安症,統合失調症などの精神疾患がある人に発現した原因不明の痛み.
           または,簡単には解決できない心理社会的要因(ストレス)が加わった場合に生じる原因不明の痛み.

8.  特発性歯痛:X線画像などには明らかな異常が認められない“原因不明の歯痛”
   【痛みの特徴】 歯に慢性の痛みが生じ,起きている間中持続する.歯科治療を繰り返したが全く効果がない.
           食事の時には痛みは改善する.

9.  その他の様々な疾患により生じる歯痛
   【痛みの特徴】1-8以外の痛み.

10.  舌痛症と口腔内灼熱症候群
   【痛みの特徴】 口腔粘膜にやけどをしたようなヒリヒリする痛みが一日中持続している.みは食事中には改善する.
           ガンではないかと心配.

11.  歯科医師のみなさまへ:「歯原性歯痛と非歯原性歯痛の鑑別法」
   非歯原性歯痛を診断するには,まず痛みの原因が歯原性でないことを診断しなくてはいけません.
   患者さんの痛みの多くは先生方が日常臨床で日々対応している歯原性歯痛が多く,初めにこの鑑別診断を確実に行ってから,
   非歯原性歯痛の診断へと移行することが大切です.

 

 1.  筋・筋膜痛による歯痛
 

【痛みの特徴】数日~数週間前から,軽度の疼くような鈍い痛みが歯に生じている.どの歯が痛いのかよくわからない.痛みは日常生活には支障はない.
【考えられる病気】筋・筋膜性歯痛

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【筋・筋膜痛による歯痛とは?】
 非歯原性歯痛というと三叉神経痛のような神経障害性歯痛や心因性の歯痛のイメージが強いかもしれません.しかし非歯原性歯痛でもっとも多いのは筋・筋膜痛による歯痛で,最近では歯科医師国家試験にも関連する問題が出題されています.
 筋・筋膜痛による歯痛とは,咀嚼筋(側頭筋,咬筋,顎二腹筋など)が疲労して,筋肉の中にトリガーポイント(TP)と呼ばれるしこりのようなものが生じた結果,TPから関連痛が発生して「歯痛」と感じられるものを言います.関連痛の発現部位は多くは上下臼歯部です.
 症状としては,患歯の特定が困難・自発性の鈍痛・持続性の痛みなどです.歯原性歯痛と混同されやすく誤って麻酔抜髄や抜歯処置が行われてしまう可能性があり注意が必要です.

【原因】
 慢性的な筋肉への負担により筋が疲労した結果,筋肉が拘縮してスジのようなもの(索状硬結)が生じ,さらにその中にトリガーポイントが形成され,それが原因となって歯痛が発生します.

【診察・検査】
 筋の圧痛検査を行い,疼痛発生源と思われるTPを見つけたら,5秒程度,圧迫し続けます.圧迫により,歯痛が再現されればそのTPからの関連痛で歯痛が生じている可能性が高くなります.確定診断はTP注射(*)で行います.
*痛みの発生源であるTPに局所麻酔(TP注射)を行うことで歯痛が消退することで診断ができます.反対に,歯には異常はないので,患者さんが歯痛を訴える部位に局所麻酔を行っても歯痛は改善しません. なお画像検査で診断する事はできません.

【治療法】
 TPが生じている筋を安静にする必要があります.そのため繊維質・硬い食物の摂取を控えるともに,ガムの咀嚼を制限,日中の上下歯列の接触癖の改善などの指導を行います.また患者さん自身の指で痛みが誘発される部位を確認させて,その部位のマッサージを指導するのも有効です.
 前述のトリガーポイント注射は鑑別診断とともに治療として有用で,1%のリドカインなどを2~5ml程度注入します.なお使用する薬剤には血管収縮薬が含まれない局所麻酔薬が推奨されます.
 薬物療法は,非炎症性であるためアセトアミノフェンを用いますが,鎮痛効果を期待して非ステロイド系消炎鎮痛剤(NSAIDs)を選択することもあります.さらに症状の程度により中枢性筋弛緩薬,三環系抗うつ薬,ベンゾジアゼピンなどを選択します.

 

2.  発作性神経障害性疼痛による歯痛:数秒間発作的に生じる歯痛
 

【痛みの特徴】 顔面や喉の瞬間的な激痛,電気が走り抜けるような,刺されるような.痛みのあまりうずくまる.片側性.
【考えられる病気】 ①顔面・口腔内の場合→三叉神経痛,②咽頭や耳のあたり→舌咽神経痛

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【神経障害性疼痛による歯痛とは?】
 神経障害性疼痛による歯痛とは,末梢神経または中枢神経そのものが障害されたときに生じる痛みであり,発作性神経障害性疼痛による歯痛と持続性神経障害性疼痛(次項参照)による歯痛の2つに大別されます. ここではまず、発作性神経障害性疼痛に伴って生じる「歯痛」について解説します。

【発作性神経障害性疼痛による歯痛とは?】
 何らかの理由で神経の周りのカバーが剥がれ,いつもは痛みを起こさないような小さな刺激で強い歯痛が発生する症状です.稀な疾患ではなく,歯を刺激しなくても顔面や口腔内の一部を刺激することで歯痛が発生することもあります.
 多くは理由なく突然始まり,発作的に数秒から数分の強い歯痛が生じます.電撃痛と表現されるような,ビリッとした痛みを訴えます.なにもせず,顔を動かしたり触ったりしなければ痛みは生じませんが,食事,飲水,会話,歯磨き,髭剃りなどで痛みが生じ,日常生活が困難になります.片側に出現することがほとんどで,両側にまたがって発生することは大変稀です.あたかもむし歯の痛みのように感じる場合もあるため,歯の疾患との鑑別が必要です.発作性神経障害性疼痛による歯痛に通常の歯科治療をおこなっても痛みは治まりません.

【原因】
 原因となる病気には三叉神経痛や舌咽神経痛があり,多くは神経と血管の接触によって発生するといわれていますが,脳腫瘍によって発生するものもあります.そのほか多発性硬化症による神経痛を原因とする歯痛もあります.

【診察・検査】
 臨床症状が診断の決め手となりますので,診察がとても重要です.ただし,脳や神経の変化が痛みに関わる場合も多いため,発作性神経障害性疼痛による歯痛を疑うときには頭部MRI撮影を行い,頭蓋内病変の有無を確認します.

【治療法】
 原因となる疾患に合わせた治療になります.薬物療法,脳神経外科での手術,神経ブロック,γナイフ治療などを行います.最初は薬物療法を行う場合が多く,カルバマゼピンなどの抗てんかん薬が使用されます.簡便ですが,薬疹や眠気,ふらつき,肝機能障害などの副作用に注意して服用量を決定します.脳神経外科での手術では,神経血管減圧術や腫瘍摘出が行われます.根治的療法であり,手術後は痛みが消失する場合がほとんどですが,稀に痛みの残存や再発もあります.神経ブロックやγナイフ治療は身体的な負担が少ない方法ですが,反復して行う場合があり,副作用として顔面領域の感覚異常を引き起こすことがあります.

 

3.  持続性・神経障害性歯痛:歯科治療後に長引く痛み,帯状疱疹による歯痛
 

【痛みの特徴】 ある日突然,または歯科治療後から,24時間間断なく続く痛みが歯に発現した.どの歯が痛いか,はっきりわかる.
【考えられる病気】
 ① 急性の場合(痛みは1週間以内に発現)→帯状疱疹性歯痛
 ② 慢性の場合(痛みは数か月以上持続している)→外傷性神経障害性疼痛

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 神経障害性疼痛による歯痛とは,末梢神経または中枢神経そのものが障害されたときに生じる痛みであり,発作性神経障害性疼痛による歯痛(前項参照)と持続性神経障害性疼痛による歯痛の2つに大別されます.
 ここで解説する「持続性神経障害性疼痛による歯痛」は、さらに歯科治療後に長引く痛み(外傷性神経障害性疼痛による歯痛)と帯状疱疹の経過中に生じる歯痛の2つに大別されます.

① 急性の場合【帯状疱疹の経過中に生じる歯痛】につい
 
帯状疱疹の初期症状として,歯の痛みが持続的に続くことがあります.臨床症状としては,ウイルスが歯の神経まで達すると虫歯のない歯にズキズキとした痛みとして感じられ,数日の間に強い痛みへと移行します.その後,周囲の歯肉や顔面皮膚に赤い斑点(はんてん)と小さな水ぶくれが帯状(おびじょう)に現れ,刺すような,焼けるような強い痛みを伴います.

【原因】
 帯状疱疹の原因は,子供の頃に感染した水ぼうそうのウィルス(水痘帯状疱疹ウイルス)です. 幼少期に感染したウィルスは,以後何十年も神経の集まった部分(神経節)に潜んでおり,高齢や病気で免疫力が低下すると再活性化して, ,帯状疱疹を発症します.

【診察・検査】
 水ぶくれに含まれる液のウィスル検査(PCR)や血液検査で,水痘帯状疱疹ウイルスに対する抗体の量を調べることができます.

【治療法】
 帯状疱疹性歯痛はウイルス由来の神経の炎症と考えられていますので,原疾患に対して,抗ウイルス薬(塩酸バラシクロビル,アシクロビル)を用い,神経の炎症にはバファリンのような非ステロイド性抗炎症薬やステロイドを処方します.

② 慢性の場合【歯科治療後に長引く痛み(外傷性神経障害性疼痛による歯痛)】について
 歯の神経を抜いた後,通常1週間程度で痛みや違和感はとれますが,場合により痛みが長引くことがあります.正常な痛みの情報を伝達することができず,歯や歯肉を軽くさわっただけでも「ピリピリ,ビリビリ,ジンジン」とした痛みを誘発します.これを外傷性神経障害性疼痛による歯痛といいます.歯や歯肉の神経の傷ついた部位から痛みの異常信号が脳に伝わり,この異常な痛みが生じることがあります.
 親知らずの抜歯後の場合では,1035症例のうち,23人に長期にわたる歯痛や何かしらの症状がみられ,歯の神経を抜いて難治性の痛みが残った271人のうち,16人は神経障害性歯痛であったと報告されています.

【原因】
 親知らずの抜歯やインプラント治療などの手術で顎や歯に走っている神経が傷ついた際に,外傷性神経障害性疼痛が生じことがあります.

【診察・検査】
 綿棒や爪楊枝などで傷ついた側の歯肉や顎の皮膚を軽く触り,反対側(傷ついていない側)との感覚の違いを観察します.

【治療法】
 歯科治療後の神経障害性疼痛による歯痛の治療法としては,神経障害性疼痛や線維筋痛症に対する疼痛治療剤(プレガバリン)と抗うつ薬の一部が第一選択薬とされています.

 

4.  神経血管性頭痛による歯痛(群発頭痛や片頭痛に伴って生じる歯痛)
 

【痛みの特徴】 歯や顔面に発作性の痛みが生じ,数時間持続して消失する.発作時以外に痛みはない.
【考えられる病気】
片頭痛もちの人で片頭痛の発作中に生じる場合→顔面片頭痛
一日に数度発作性の歯痛(激痛)が片側の歯や顔面に生じる,痛い側に涙や鼻水が出る→群発頭痛およびその類似疾患(TACs

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【神経血管性歯痛とは?】
 神経からの信号によって,頭蓋内の血管が腫れて生じる頭痛です.これらの「頭痛」は患者さんには「歯痛」と感じられることが稀ではないため,間違って歯科を受診することがあります.このような「歯痛」を神経血管性頭痛による歯痛といいます.
代表的な「神経血管性頭痛」には,片頭痛や群発頭痛があります.また群発頭痛と同じグループのTACs(三叉神経・自律神経性頭痛)と呼ばれる頭痛も,歯痛や顔面痛を生じることがあります.

【原因】
 群発頭痛や片頭痛では、脳の血管が一時的な炎症を起こすために頭痛が生じます.脳の血管に分布する神経は、顔面の痛みの神経と合流するため、頭痛と同時に歯痛が生じることがあります.

【診察・検査】
 頭痛専門医たちが用いている,「国際頭痛分類第3版(ICHD-3)の診断基準に照合して,診断します.

  • 片頭痛の発作中,頭痛よりも顔面痛(歯痛)の方を強く感じる場合は「顔面片頭痛」と呼ばれます.しかし,原因疾患は片頭痛ですから,吐き気や嘔吐,体動で頭痛が悪化するなどの片頭痛の特徴を有しています.
  • TACs(タックス:三叉神経・自律神経性頭痛)
    顔面片側の発作性の激痛を特徴とし,以下の4種類があります.TACsに共通する特徴として,痛い側に涙や鼻水が出るなどの自律神経症状が見られます.
      • 群発頭痛:1-2年に一度群発期が巡ってくると毎日激痛発作が生じます.34%が歯科を受診し,16%が抜歯されているという報告があります.女性よりも男性に多い病気です.
      • 発作性片側頭痛:群発頭痛に似ていますが,発作の回数や持続時間が異なります.また,インドメタシンで完全に痛みが治まります(インドメタシン反応性頭痛).男性よりも女性に多い病気です。
      • SUNHA(サンハ):三叉神経痛のように見える短い発作が連続して生じます.抗てんかん薬のラモトリギンが第一選択です.
      • 持続性片側頭痛:一日中持続する慢性の片側性の頭痛(顔面痛)に発作性の激痛が重なる,2種類の痛みを特徴とする頭痛です.インドメタシン反応性頭痛とされています.

【治療法】
  TACsは特殊な頭痛であるため,治療は日本頭痛学会の頭痛専門医に依頼することをお勧めします.頭痛専門医は脳神経内科医,脳神経外科医に多く,特に「頭痛外来」のあるところが良いでしょう.

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5.  上顎洞疾患による歯痛(上顎洞病気により生じる歯痛)
 

【痛みの特徴】 数日前から上顎の奥歯に持続性の痛みが生じている.通常片側性.
【考えられる病気】 数日前から風邪を引いている,または痛い側の鼻が詰まっている→上顎洞疾患による歯痛

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【上顎洞性歯痛とは?】
 頭蓋骨の中の鼻の左右両側に位置する空洞を上顎洞といい,上顎洞疾患による歯痛とは上顎洞内にできた病気が原因で歯に痛みが生じるもので,上顎洞内部に圧が加わるか,上顎洞内の炎症が歯の近くにまでおよぶことで歯痛が生じると考えられています.

【原因】
 上顎洞疾患による歯痛を起こす病気には,上顎洞炎,術後性上顎嚢胞などがあります.上顎洞炎は蓄膿症とも呼ばれ,上顎洞を囲む粘膜が炎症を起こしている状態を言います.上顎洞炎にかかった人の18%に歯痛が起こったことが報告されています.上顎洞炎は慢性化すると,鼻が詰まった感じや頭が重いと感じることはあっても,歯痛はあまり感じにくくなると言われています.次に,歯痛を起こす病気として術後性上顎嚢胞があります.過去に,上顎洞炎の治療の一つに上顎洞根治手術と呼ばれる上顎洞の粘膜をすべて取り去る治療法がありましたが,その手術の後に上顎洞内に嚢胞と呼ばれる袋状のうみのかたまりが生じることがあり,これを術後性上顎嚢胞と呼びます.この術後性上顎嚢胞が発生した人の10%に歯痛が生じることが報告されています.上顎洞疾患による歯痛は上顎洞が原因部位であるため,歯痛は上あごの歯の特に奥歯に発生しやすいです.上顎洞周囲に圧迫感を感じ,痛みが持続するのが特徴です.

【診察・検査】
 原因疾患である上顎洞炎はX線画像検査やCT画像検査から診断することができます(図 正常な上顎洞は空気で満たされているため黒く写るが,炎症のある上顎洞は白く写っている.).

【治療法】
 上顎洞疾患による歯痛は,原因となっている上顎洞の病気を治療することで,治療に伴って歯痛は和らいできます.急性上顎洞炎が原因の場合,まず抗生物質による薬物療法を行います. 薬物療法でも症状が改善しない場合は,鼻通りを良くするために内視鏡手術を行います.

 

6.  心臓疾患による歯痛
 

【痛みの特徴】 歩いたり運動したりすると下顎に痛みが生じる.痛みは10分ほどで消失する.両側性のことが多い.
【考えられる病気】 通常中年以上→心臓疾患による歯痛(狭心症や心筋梗塞による歯痛)

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【心臓疾患による歯痛とは?】
 

 狭心症や心筋梗塞などの急性冠症候群による虚血性心疾患により,歯痛が生じることがあります.虚血性心疾患の発作時,患者の38%に顔面の痛みが,4%に歯痛が生じると報告されています.多くの場合,胸の痛みと顔面の痛み,歯痛が同時に生じますが,稀に胸の痛みがなく歯痛のみが症状として現れることがあります.
 心臓疾患による歯痛の特徴は,胸の痛みや不快感と連動した強い歯痛であること,圧迫痛や灼熱痛であること,半数以上は左右どちらかでなく両方の顎に痛みが生じること,痛む時間は数分~20分程度であること,運動時,興奮時,食事時に歯痛が生じ安静にしていると痛みは軽減すること,などが挙げられます.

【原因】
 痛みのメカニズムとして,迷走神経を通じた関連痛として顔面部に痛みが生じると考えられていますが,詳細はまだ分かっていません.

【診察・検査】
 心臓疾患による歯痛が疑われた場合,早急に心疾患の精査を行う必要があります.
循環器科や内科など,心臓の専門家に診察を依頼します.精査では,血液検査や心エコーなどが行われます.

【治療法】
 心疾患と診断された場合,治療法として,抗狭心症薬や抗血栓薬などの薬物療法や,バイパス術などの外科的手術があります.

 

7.  精神疾患または心理社会的要因による歯痛
 

【痛みの特徴】 うつ病や不安症,統合失調症などの精神疾患がある人に発現した原因不明の痛み.または,簡単には解決できない心理社会的要因(ストレス)が加わった場合に生じる原因不明の痛み
【考えられる病気】 さまざまな精神疾患に起因する,脳の変調で生じた痛み.

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【精神疾患または心理社会的要因による痛みとは?】
  皆様の中には,「精神疾患や心理社会的要因で歯痛が起こるのか」と疑問を抱いている方も少なくないと思います.そこで,若干の知見を含めてご説明します.
 精神疾患と痛みの領域は,昨今の脳科学研究で飛躍的進歩を遂げています.これまで心因性と考えられてきたものに,脳に何らかの生物学的変化が起こっていることがわかりました.社会的疎外感・死別・理不尽で不公平な待遇・嫉妬・罪悪感などで生じる「心の痛み」はSocial Painと呼ばれ,怪我などの「身体の痛み」と脳の同じ領域を活性化することが判明しました(図1).心が痛む時は,脳も痛みを感じているのです.しかし,真の心因性疼痛は非常にまれで,一般的に心理的要因は患者さんが感じる痛みを修飾(例えば増強)すると考えられています.痛みの感度も注目され,過去にどのような痛みを体験したか,痛みへの不安や恐怖,痛みをどのように捉えどのように対処しているか,といったさまざまな要因が影響します.慢性化した痛みは,不安・イライラ・抑うつなどの精神的変調を及ぼすこともわかっています.

【原因】
 さまざまな精神疾患が痛みに関与していることもわかってきました.うつ病・不安症と疼痛(痛み)は免疫などの研究から,独立した別個のものではなく連続するスペクトラムでとらえられ,関連が注目されています.スペクトラムとは,境目がはっきりせず移り変わる虹を思い浮かべてください(図2 「SIMPLE TEXT 口腔外科の疾患と治療」から許可を得て転載).
 特にうつ病患者(本邦の生涯有病率は約6%)では痛みを併発することが多いこと(併発率は15~100%で文献により幅がある),痛みがあるとうつ病を長引かせたり,再発を早めたり,機能をさらに低下させたり,うつ病の予後を悪化させやすいこと,慢性の痛みはうつ病の発症リスク(発症率30~55%)となることもわかっています.ですから,痛みのほかに気持ちの落ち込み・意欲の低下・不眠などのうつ病を疑わせる症状があれば,精神科受診が必要となる場合もあります.
 このように,精神疾患と身体疾患の密接な関連から,身体疾患の有無はあまり問題にならなくなり「米国精神医学会」は最新の診断マニュアルで身体症状症(身体症状があり,それに不釣り合いで過度で持続的な不安があれば診断できる.有病率は5~7%)という医学概念を提唱しています.歯科領域にも現れます.

【診察・検査】
 診断の基本は,丁寧な医療面接で痛みの特徴を把握することです.発症のきっかけとして,ストレス・仕事や人間関係でのトラブル・歯科医師に対する陰性感情(不安・怒り・恨み・憎しみなどの感情を意味する.喜び・楽しさ・愛情などの陽性感情の対極の感情)の存在が認められることもあります.慢性的な持続痛ですが,食事や睡眠,楽しい時間は痛みが軽減することもあります.うつ病,身体症状症,心因の存在などが明らかになることもありますが,身体的異常所見が認められないからといって安易に心因性歯痛と診断すべきではありません.精神疾患の診断には精神科医師の診断が必要です.心理検査も有効ですが,患者さんの物理的・精神的負担を考慮し慎重に実施すべきです.

【治療法】
 認知行動療法(認知の“くせ”に気づき,それを修正して行動を変える)などの精神療法や薬物療法(抗うつ薬,抗けいれん薬などの鎮痛補助薬)に証左が報告されています.うつ病の場合には,その治療(抗うつ薬などの薬物療法や精神療法など)によって痛みが軽減する可能性もあります.身体症状症の場合には,「痛みをゼロにすること」を短期的な目標とせず,まずは「痛みとうまく付き合うこと」を最初の目標としながら,時間をかけた専門的治療が大切です.

 

8.  特発性歯痛
 

【痛みの特徴】 歯に慢性の痛みが生じ,起きている間中持続する.歯科治療を繰り返したが全く効果がない.食事の時には痛みは改善する.
【考えられる病気】 特発性歯痛(旧非定型歯痛)

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【特発性歯痛とは?】
 「X線画像などには明らかな異常が認められない“原因不明の歯痛” で,抜髄(歯の神経を抜くこと)や根の治療を何ヶ月も続けているのに,いっこうに痛みが引かない」という病気です.男女比では1対9と圧倒的に女性が多く平均受診年齢は55歳です.その痛みは「じんじん,じわじわ」と表現されることが多く,目が覚めている間中続きます.虫歯の痛みと非常によく似た症状を示すうえに, 長引く痛みから患者さんの苦痛も大きく,最終的に抜歯になることもあります.しかし歯には原因がないため歯科治療や手術をしても効果はありません.むしろこのような治療をすればするほど状態が悪化する傾向があります.また痛み止めの薬やブロック注射も効果はありません.

【原因】
 現在ではこの痛みの原因は脳の痛みを解釈する神経ネットワークの異常と考えられていますが,明確には分かっていません.

【診察・検査】
 診察や検査で客観的な証拠をつかむことはできないため,「歯には痛みの原因となるような異常は認められない」という除外診断が主になります.すなわち,

  • 歯の痛みであれば痛み方に変動があり,時間と共に悪くなったりよくなったりしますが,特発性歯痛では痛みは一定で数週間,数ヶ月以上も変化なく続きます.
  • 歯の痛みであれば冷温水や歯を叩くなどの局所刺激によって痛みが悪化しますが,特発性歯痛ではそのような局所刺激は痛みに影響を与えず食事をするにも支障がありません.(むしろ食事中は痛みが消失するという患者さんが多いです)

 などという点を手がかりにしながら診断を行って行きます.

【治療法】
 治療は薬物療法(抗うつ薬)及び認知療法(痛みに注意を向け過ぎないなど)の2本柱で行います.抗うつ薬については歯科医でも処方はできますが,副作用などの点から医科と連携がとれる,トレーニングを受けた歯科医師による処方が必要になってきます.

 

9.  その他の様々な疾患により生じる歯痛
 

【痛みの特徴】1-8以外の痛み.
【考えられる病気】 悪性腫瘍,血管炎,良性腫瘍,頸椎の異常,迷走神経反応,薬の副作用など,さまざまな原因が考えられます.

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【その他の様々な疾患により生じる痛みとは?】
 歯の痛みを伝えている体の一部に, 様々な疾患によって以下の①〜③のような状況が生じると,体は歯の痛みと勘違いして「非歯原性歯痛」を引き起こす可能性があります.

痛みの原因が生じた部位の神経とは異なる神経が支配している領域に痛みが拡散する(関連痛)
痛みを感じている部位自体ではなく,そこに関係している痛みの神経(末梢神経または中枢神経)が傷害を受け,傷害部位とは別の部位に痛みが生じる(神経障害)
中枢での痛み情報の処理の異常

 このような状況を引き起こす疾患として,前述の1〜8がありますが,その他にも,悪性腫瘍,血管炎,良性腫瘍,頸椎の異常,迷走神経反応,薬の副作用によって「歯の痛み」と感じる状況が生じることが報告されています.この中で悪性腫瘍に関連する歯痛は稀ではなく,生命予後を左右するため,特に鑑別が重要です.

【考えられる病気:悪性腫瘍】
 口腔粘膜,特に歯肉や口腔前庭,口腔底,上顎洞のがんは歯の痛みのように感じられることがあります.鼻咽頭がんは顔面痛,開口障害,開口時の顎の偏位,耳の痛み,頭痛として感じられ, 顎関節症や耳下腺の病変,歯の炎症が原因の開口障害と誤認されることがあります.上顎洞がんは上顎洞内にできる悪性腫瘍のことで,36%の人に上顎洞がんの初発症状として歯痛が生じることが報告されています.上顎洞内の悪性腫瘍はCT画像検査や組織検査により診断します.悪性リンパ腫や白血病なども,骨膜や歯肉に浸潤して歯や歯周組織の痛みと誤認される事があります.骨溶性の疾患である多発性骨髄腫ではレントゲンで骨吸収がみられ歯痛が生じます.乳がん,肺がん,前立腺がんは口腔顔面領域への転移も多く,顎骨に転移した場合は痛み(39%)や感覚異常(23%)に生じます.転移がんでなくても迷走神経を介して口腔顔面領域に痛みが発現することがあります.この場合は片側性でうずくようなズキズキした持続性の痛みが歯痛と誤認されることがあります.

【考えられる病気:血管炎】
 高安動脈炎(大動脈炎症候群)や巨細胞性動脈炎の関連痛で歯痛が生じる場合があります.
 高安動脈炎(大動脈炎症候群)は,胸部・腹部大動脈などの比較的太い動脈の慢性炎症継続により血管の狭窄や閉塞を起こす疾患です.炎症の部位により様々な症状がみられます.若い女性に好発します(男女比 1:8).血圧の左右差が大きい,脈が触れないなどの症状がみられます.初期には発熱,全身倦怠感,食欲不振などがみられます.その後,頭部を栄養する血管が障害を受けた場合は, めまい,立ちくらみ,脳梗塞,失明,難聴,耳鳴り,歯痛,頚部痛など様々な症状が認められます.
 巨細胞性動脈炎は高齢者の病気で, 50歳以上に発症します(男女比 1:2〜3).咀嚼筋を栄養する動脈が罹患した場合は,食事中に顎の筋肉が痛くて食事を中断せざるを得なくなったり(顎跛行),歯痛が生じたりすることも報告されています.眼動脈が罹患し,診断が遅れると失明する危険性がありますので注意が必要です.

【考えられる病気:薬物の副作用】
 統合失調症などの治療で用いられる抗精神病薬(ハロペリドール,リスペリドン)の主な副作用として,振戦(手指の震え),筋肉のこわばり,ジストニア(筋緊張が異常となり強直・捻転が生じ奇妙な姿勢となる)などがありますが,知覚過敏様の歯痛(44%)も報告されています.
 悪性腫瘍の化学療法による細胞毒作用によって末梢神経がダメージを受け,歯髄炎のような(ズキズキした)歯痛が生じることがあります.

 

10.  舌痛と口腔内灼熱症候群(Burning Mouth Syndrome: BMS)
 

【痛みの特徴】 口腔粘膜にやけどをしたようなヒリヒリする痛みが一日中持続している.痛みは食事中には改善する.ガンではないかと心配.
【考えられる病気】 ①舌の先端や舌の側縁→舌痛症,②舌や口蓋,口唇粘膜の内側,歯肉などの広範囲に痛みが生じている場合→口腔内灼熱症候

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【舌痛症・口腔内灼熱症候群とは?】
 舌痛症は正常な舌の先端や側縁にヒリヒリする持続性の痛みが起こるという病気です.痛みの程度は, 多くは軽度から中等度で見た目には異常がありません.
 食事中は痛みを感じることはほとんどありません.食べることで脳の感覚がごまかされて通常感じている痛みが感じられなくなっている可能性があると考えられています.
 症状が現れたきっかけを振り返ると不安(ガンではないか?)やストレスを強く感じる出来事があったという患者さんも多い事が知られています.また舌痛症とよく似た病気ですが口腔内灼熱症候群という病気があり,舌だけでなく口唇(上唇と下唇),上アゴ,歯肉,口の中全体の粘膜がヒリヒリとやけどをした後のように痛むなどの症状を示します.
 舌痛症や口腔内灼熱症候群の有病率は0.7〜5.0 %という報告があり,男女比は1対9で女性に多く,40〜60代の中高年に多く見られます

原因】

明らかな原因が認められない場合(一次性)
カンジダ(カビの一種),貧血など明らかな原因がある場合(二次性)
に分けられます.
  場合は神経障害性疼痛の可能性や, 性ホルモンの減少,ストレスなどの関与が疑われてはいますが,完全には解明されていなのが現状です.

【診察・検査】
 まずは痛みを起こす明らかな原因があるかのスクリーニングを行います.具体的には血液検査(貧血や栄養素,内分泌疾患の有無),カビが生えていないかを調べるための培養検査などです.

【治療法】
 舌痛症や口腔内灼熱症候群の治療は薬物療法と認知療法の2本柱になります.薬物療法としては三環形抗うつ薬(トリプタノール)やSNRI(サインバルタ)などの服用,認知療法としてはガンではないかという不安などがきっかけになっている場合はその不安の除去,ストレスと症状の関連の認知,また痛みから注意をそらす(コーピング)方法の習得などが主になってきます.
 カンジダ(カビの一種)や鉄欠乏貧血などでも同じように痛みを感じることがありますが,これらの器質的異常が実際に存在する場合には食事時に醤油や味の濃いものがしみます.この場合は原因となっている疾患の治療していくことになります.

 

11.  歯科医師のみなさまへ:「歯原性歯痛と非歯原性歯痛の鑑別法」
   非歯原性歯痛を診断するには,まず通常の歯原性歯痛を除外する必要があります.「歯痛」のほとんどは, 先生方が日常臨床で日々対応している歯原性歯痛です. 初めにこの鑑別診断を確実に行ってから,非歯原性歯痛の診断へと移行することが重要です
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【歯原性歯痛の診断時の注意点】
 多くの歯原性歯痛では病気に見合った臨床所見(いわゆる教科書的検査所見)が認められるはずと考えがちです.このため痛みを訴えてもそれに見合った臨床所見が認められないと,つい「非歯原性歯痛では?」と考えてしまいます.しかし歯原性歯痛でも痛みに見合う臨床所見が必ず認められるわけではありません.その注意点をいくつか挙げます.

1.歯痛錯誤(関連痛)
 患者さんの訴えと実際の痛みの発生部位が異なる歯痛錯誤(上下,近遠心)が生じることは多々あります.ただし放散痛の様にどこが痛いか全く分からなくなった場合を除き,歯痛錯誤が正中を越えて左右の反対側に生じることは稀です.

2.X線検査の透過性
 X線検査の透過性の亢進は,すでに病状が進行してから生じます.つまり失活直後の根尖性歯周炎などではX線検査で根尖部に透過像は認めません.このため根尖部に透過像を認めなければ,歯髄の失活,根尖性歯周炎ではないと診断するのは危険です.

3.亀裂・破折からの歯髄疾患
  失活歯の歯根破折について注意されている先生は多いと思いますが,歯の破折は生活歯でも生じます.特に歯冠部の亀裂は歯髄疾患を継発させますが,検査での発見が難しく注意が必要です.大臼歯,特に下顎大臼歯に認められることが多いです.

4.2次う蝕からの歯髄疾患
 以前に治療が行われている部位は,どうしても痛みの発生部位とは考えにくくなってしまいます.しかし生活歯の全部金属冠内部のう蝕や,レジン修復における辺縁漏洩などからも歯髄疾患は生じます.これも検査での発見が難しく注意が必要です.

5.打診痛の有無
 急性の全部性歯髄炎は,歯髄の炎症が根尖から歯根膜組織に波及して打診痛を認めるとされています.しかし歯髄からの炎症は必ず根尖から歯根膜組織に波及するわけではなく,強い痛みを訴えても打診痛を認めない歯髄炎は少なくありません.

【診察・検査・治療時の注意点】
 診断に当たっては,十分な医療面接を行うことは言うまでもありませんが,原因と考えられる部位に対して刺激を加えて,訴える痛みが再現される,またはやわらぐかを患者さんに確認するのも的確な診断方法です.また考えられる部位に局所麻酔を行って,訴える痛みが消退するかで診断を行う診断的局所麻酔も有効です.しかし,やみくもに局所麻酔を行ってしまうと結局どこが原因か分からなくなってしまいます.診断的局所麻酔を行うのは診断を確定させる最後の診査と考えた方がいいでしょう.
 また治療は当然,一般的な抜髄,感染根管処置もしくは抜歯処置などで症状は寛解しますが,歯痛錯誤の場合などは,患者さんの訴えとは違う部位に対して処置を行うので,処置前に患者さんに対して十分な説明が必要です.