開催日 2006年10月7日(土)~8日(日)
場所 神奈川県民センター、神奈川歯科大学横浜研修センター
大会長 今村佳樹
準備委員長 後藤實
委員長補佐 小川明子
連絡先 日本大学歯学部口腔診断学講座
日本大学歯学部付属歯科病院 ペインクリニック科
〒101-8310 東京都千代田区神田駿河台1-8-13
TEL:03-3219-8099
FAX:03-3219-8346

口腔顔面痛懇談会第7回研究会 抄録集

特別講演1

Orofacial pain: focus on peripheral NMDA receptors.
Peter Svensson PhD, Dr.Odont.DDS, Professor and chairman Department of Clinical Oral Physiology School of Dentistry University of Aarhus Denmark
The excitatory amino acid glutamate has a well-established role as a neurotransmitter in the central nervous system and is pivotal for sensitization of nociceptive neurons and facilitation of pain. Over the last decade increasing attention has been drawn to the peripheral effects of glutamate on nociceptive afferents from the skin, joint and muscles. In-vitro studies have shown that administration of glutamate leads to thermal and mechanical sensitization of primary nociceptive afferents from the skin and have localized and characterized the receptor mechanisms involved. A series of collaborative studies with Dr. Brian Cairns, University of British Columbia, Canada have focused on the peripheral glutamate effects in orofacial tissues with the use of in-vivo electrophysiological techniques in rats and psychophysical tests in healthy human subjects and orofacial pain patients. Pharmacological blocking studies have been used to characterize the peripheral receptors and examined sex-related differences and influence of sex hormones on nociceptive processing and orofacial pain. Microdialysis studies have in some clinical musculoskeletal pain conditions, but not all demonstrated elevated levels of glutamate. Very recent studies have implicated muscle spindle afferents as a potential source of peripheral glutamate and we are currently investigating whether patients with chronic jaw-muscle pain or temporomandibular joint pain have increased tissue levels of glutamate. Finally, we have begun to test the effects of the NMDA receptor antagonist ketamine in clinical orofacial pain conditions. The talk will summarize the recent findings related to orofacial pain from in-vivo animal studies, human experimental studies and controlled clinical trials. It is proposed that an interdisciplinary and multimodality approach is needed to understand the complexity of pathophysiological mechanisms involved in orofacial pain conditions.

Acknowledgement. The National Institutes of Health provided financial support to the collaborative studies.

特別講演2

Association between sleep bruxism and headaches?
Gilles Lavigne DMD, PhD, FRCD (oral medicine)
Sleep and biological rhythm research center, Sacre-Coeur Hospital and Faculty of dental medicine, Universite de Montreal, Montreal, Canada
Sleep bruxism (SB), a sleep movement disorder, is characterized by tooth grinding (TG) and/or clenching. SB is reported by 8% of population, tension headache by 14% and temporomandibular pain by 5-9%. Up to 65% of SB patients (SBp) report headaches (Bader, Sleep 1997; Camparis, OSMP 2006). The Relative Risk of frequent headache reports from a community sample with orofacial pain is 3.1 (Macfarlane, Oral Bio Med 2004).

A current hypothesis links SB to natural ongoing sleep micro-arousals, in a sequence of physiological, as seen by a rise in:

  • sympathetic cardiac activity, minus (-) 8 min;
  • frequency of brain activity, – 4 sec;
  • heart rate, -1 beat;
  • jaw opening muscle activity (airway opening), -1 sec;
  • SB & TG.

Administration of clonidine (alpha adrenergic cardiac agonist) reduced sympathetic cardiac activity and SB by 60% (Huynh, Sleep 2006). A preliminary study suggested we could reduce the number of SB episodes by opening the airway using a Mandibular Advancement Device (MAD) (Landry, Int J Protho 2006).

A retrospective analysis of 100 SBp revealed 3 clusters: low frequency (2.2 SB rhythmic masticatory muscle activity – RMMA /hr), moderate (5.7/hr) and high (9.6/hr). Interestingly, morning headache reports were noted in 32.4% of the low SBp group vs. 17.6% in the moderate & high groups but not in controls. SBp had an Odd Ratio of 4.5 for reporting headaches or migraines (Rompre J Dent Res abst 2006). These data suggest that SBp may have somatic complaints that need to be investigated to capture the cause and consequences of chronic SB, pain and headache. Moreover, the role of respiratory dysfunction needs to be investigated in more detail since in a pilot analysis we noted that 4/9 SBp presented several limitations in airflow; suggesting that respiratory disturbances may contribute to pain in SB.

シンポジウム1「中枢ならびに抹消での口腔顔面痛の調節機構」

1)イントロダクション
武田守:日本歯科大学生命歯学部生理学教室
痛みの受容と伝達は生体防御機構として、免疫系とともに重要な役割を担っています。この痛み信号は末梢の受容器から中枢に到る経路におい て増強または減弱などの修飾を受けることが知られています。一方、日常の歯科臨床上問題となる急性侵害性疼痛をはじめとして、炎症性/神経因性疼痛など難 治性疼痛の末梢、中枢レベルの発現機構も, 最近の研究により明らかになりつつあります。したがって、生理的及び病態痛における痛覚信号の修飾機構の解明 は疼痛除去と管理に科学的根拠を与える意味で重要と考えます。本シンポジウムでは、三叉神経支配領域における口腔顔面痛の中枢および末梢レベルにおける調 節機構の中でも、最近注目されている1)慢性筋痛発現に関わるアドレナリン?受容体の役割;2)急性炎症時におけるセロトニン(5HT)受容体サブタイプ の末梢と中枢における作用の違い;3)鎮痛剤の標的となるカナビノイド(Cannabinoid)受容体による疼痛伝達の修飾作用に焦点を当てました。基 礎及び臨床両面より、最近の研究成果を新進気鋭の若手の先生方に御講演いただき、三叉神経支配領域の疼痛発現とその伝達機構に関わる最近の知見を整理し、 今後の疼痛管理に関する展望について考察していきたいと考えております。

2)「交感神経系血流調節機構の異常と慢性筋痛」
前川賢治:岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 顎口腔機能制御学分野
頭頚部の慢性筋痛や緊張型頭痛をはじめとする慢性筋痛疾患は、生涯有症率が70%以上と非常に高く、中高齢層の生活の質に大きな影響を与 える疾患である。我々は、これらの筋痛が筋作業と関連せずに安静時にも発症すること、ストレスイベントと関連すること、入浴などの温熱療法に反応すること などから、筋組織内局所における血流調節機構の失調が関連しているとの仮説を、交感神経系の調節機構を中心として検討してきた。その結果、局所筋痛者なら びに線維筋痛症患者の有痛筋組織内では、交感神経活動増大時に見られる筋組織内血流増大現象が、非筋痛者に比較して有意に抑制されることが明らかとなっ た。さらに非筋痛者においても?アドレナリン受容体をブロックした状態ではこの筋組織内血流増大現象は抑制されることから、筋組織内血管径拡張因子であ る?2アドレナリン受容体の機能異常が、慢性筋痛の病態に関与している可能性を考えた。従って、実際に全身の?2アドレナリン受容体の機能を反映している 単核球細胞上の本受容体機能を評価したところ、線維筋痛症患者においては本受容体の反応性が低下していた。しかしながら、局所筋痛者においてはその反応性 は健常者と変わらず,筋内血流増大現象の抑制は他の要因によりもたらされる可能性も考えられた。本発表ではこれら一連の我々の研究成果と他施設による研究 データをレビューし、筋組織内血流異常と筋痛の関係について考えてみたい。

3)「顎顔面部侵害受容における5HT受容体サブタイプの役割について」
岡本圭一郎:和歌山県立医科大学生理学第1講座
セロトニン(5HT)は末梢、中枢神経系に作用し侵害受容反応に関与する。多数存在する5HT受容体subtypeのうち5HT3受容体 (R)、5HT2ARは脊髄や1次知覚神経節に発現し侵害受容反応を調節する。しかし顎顔面痛におけるこれら受容体の役割は十分に解明されていない。そこ で今回、末梢組織ならびに三叉神経脊髄路核尾側亜核(Vc)領域における5HT3, 5HT2ARの顎顔面部侵害受容における役割を、行動学的、Fos免疫組織化学的、電気生理学的手法を用い検討した。顎関節炎症モデルラットでは炎症側の 咬筋に5HT3R (tropisetron) 又は5HT2AR (ketanserin) 拮抗薬を投与しておくと、ホルマリン咬筋刺激による顔面部疼痛関連行動時間は短縮し、また咬筋ホルマリン刺激によってVc領域に発現するFos陽性細胞数 はこれら拮抗薬の前処置によって有意に減少した。Vc部の浅層から侵害受容neuronを細胞外記録した。記録部周辺に5HT3R tropisetron又は5HT2AR作動薬 (DOI)を滴下しておき、咬筋へのホルマリン刺激によって生じるneural activityを記録した所、neural activityはvehicle群と比べ有意に低下した。大槽内へtropisetron 又は DOIを投与しておく とホルマリン咬筋刺激による疼痛関連行動時間は短縮した。以上の結果は(1)顎顔面部深部組織の5HT3, 5HT2A受容体は顎顔面部の侵害受容反応の促進に関与し、(2)Vc領域の5HT3Rは顎顔面部の侵害受容反応を促進させ、一方5HT2ARは抑制させ る役割を持つことが示された。これらの事実は5HTがその作用部位や関与する受容体サブタイプの違いによって顎顔面痛を抑制または促進するという正反対の 役割を担うことを示唆するものである。

4)「三叉神経領域におけるカナビノイドレセプターアゴニストの作用」
小川明子:日本大学歯学部口腔診断学講座
マリファナの成分であるカナビノイドは、癌性疼痛を初めとする様々な疼痛に対する鎮痛剤として注目をあびている。そして、その基礎研究も 近年多いに進められるようになった。カナビノイドをラットの脊髄や延髄に直接投与することにより、脊髄や延髄の第V層の侵害受容ニューロンが抑制されるこ とは知られている。しかし、高次脳における痛みの認識に大きく関与すると思われているI層へのカナビノイドの作用は全く知られていない。よって、本研究で はラット三叉神経脊髄路核のI層とV層におけるカナビノイド受容体のアゴニストであるWIN 55,212-2 (WIN-2)の作用を比較した。急熱、緩熱、または冷刺激をラットの顔面受容野に与えて誘発される、三叉神経脊髄路核のI層とV層における神経活動を測 定した。急熱刺激はAd線維を刺激し、緩熱刺激はC線維を刺激することが知られている。V層においては、WIN-2の脊髄路核への局所投与により、急熱、 緩熱、冷刺激による電気活動が有意に抑制された。一方、I層においてはWIN-2により、緩熱と冷刺激による神経活動は有意に抑制されたが、急熱刺激では されなかった。よって、Vcの層の違いによりWIN-2の効果が異なることが示された。また、WIN-2をくも膜下投与し、ラット顔面への温度刺激に対す る逃避反応閾値を測定した。WIN-2投与により、緩熱と冷刺激に対する閾値は有意に増加したが、急熱刺激に対しては変化がなかった。以上の結果より、温 度刺激に対する逃避反応のWIN-2による抑制は、I層の侵害受容神経の抑制による可能性が示された。

シンポジウム2「関連通の病態と治療」

1)イントロダクション「関連痛とは?」
築山能大:九州大学大学院歯学研究院口腔機能修復学講座咀嚼機能再建学分野
慢性疼痛を訴える患者の診察にあたって、疼痛の感受部位(site of pain)と疼痛の発生源(source of pain)とが異なる状態に出くわすことは少なくない。このような異所性疼痛(heterotopic pain)の状態は臨床医が的確な鑑別診断を行おうとする際の大きな障壁となりうる。今回トピックにあげた「関連痛」は異所性疼痛のなかでも最もありふれ たものであり、主に筋・筋膜痛をモデルとして論じられてきた。そのメカニズムとしては、1)神経の収束(convergence)、2)中枢性興奮作用 (central excitatory effect)などがあげられているものの、正確なメカニズムは科学的に証明されていないのが現状である。そこで今回、慢性疼痛患者の診断と管理の現場で ご活躍の笠原正貴先生(東京歯科大学水道橋病院口腔顔面痛みセンター)と村岡渡先生(慶応義塾大学医学部歯科・口腔外科学教室)にご講演をお願いした。笠 原先生には「関連痛のメカニズム -臨床像を裏付ける神経生理学的メカニズム-」と題して、実際の臨床例をご呈示いただき、その病態を説明する関連痛のメカニズムについておまとめいただく 予定である。続いて村岡先生には「関連痛の臨床的アプローチ -関連痛のパターンと鑑別診断の実際-」と題して、関連痛の臨床的評価(関連痛のパターンなど)、鑑別診断の具体的方法、および管理についてお話いただく 予定である。シンポジストのご講演の後、関連痛に関する臨床的な問題点について検討してみたいと思う。

2)「臨床像を裏付ける神経生理学的メカニズム?」
笠原正貴:東京歯科大学水道橋病院歯科麻酔科・口腔顔面痛みセンター
痛みの発生源とは別の部位に痛みを引き起こす関連痛に遭遇することは、日常臨床において少なくない。とくに視診でもX線診査でも器質的疾 患が認められない、しかしながら歯牙の痛みを訴える症例が散見され、興味深い。これらは他臓器からの関連痛による歯痛(非歯原性歯痛)と考え、我々は対応 している。今回歯牙に生じる関連痛に焦点をあて、メカニズムについて考えてみたい。

歯牙に生じる関連痛には、筋性歯痛、神経血管性歯痛、内臓性歯痛、神経疾患性歯痛、上顎洞性歯痛、頸性歯痛などがある。例えば筋性歯痛は、頭頸部 諸筋群や咀嚼筋群の関連痛が、歯痛の他、顔面各所に発生する。非拍動性の持続痛で、関連痛領域には血管収縮、唾液分泌異常、発汗異常、温度低下などの交感 神経系の異常興奮による症状を伴っていることが多い。器質的異常を認めない歯痛のなかで最も多い。この痛みは、歯牙そのものからの痛みの伝達ではないた め、歯牙周囲への浸潤麻酔は奏効しないことがある。

これら関連痛の発生メカニズムには、三叉神経脊髄路核尾側亜核への様々な部位からの刺激伝達の収束や、痛みの持続によるcentral sensitizationの成立などが考えられている。しかしながら、現在も尚不明な点が多く、これらのメカニズムは立証されていないのが現状である。

今回実際の臨床例を数例呈示し、それらを分析することによって、臨床的見地からの病態・メカニズムを推察、考察してみたい。

3)「関連痛のパターンと鑑別診断の実際」
村岡渡:慶応大学医学部歯科口腔外科
2003年から2005年の3年間に痛みを主訴として当科顎関節疾患・口腔顔面痛外来を受診した初診患者のうち、1次診断で患者の主訴に 見合う病態が確定できなかった161例について調査した結果、約57%がSource of painとSite of painが異なっている、つまり関連痛であることが判った。関連痛が診断を困難にしているとも言える。痛みの原因は痛みが感じられる部位にあると固定観念 を持つと痛みの診断に難渋することとなり、関連痛の概念をもって診断に当たることは臨床的に非常に重要である。

本発表では、関連痛を生ずる病態に対して、その疼痛の基本的特徴と関連痛発生パターンなどをふまえ、どのように鑑別診断し真の診断に行きつくかについて解説する。

全ての疼痛の診査では、基本的診査:痛みの経過、部位、質、強さ、頻度、増悪因子、軽減因子、疼痛時行動などの評価に加えて、触診、画像検査等を行 い、病態を推定する。しかし、患者が訴える部位に病態に見合う所見が認められない場合、関連痛も含めて改めて検討し直さなければならない。関連痛の発生パ ターンや疼痛の特徴的な症状を勘案して原疾患、あるいは病態部位を究明することとなる。関連痛を生じうる疾患とその発生パターンを把握しておくことによ り、診断が困難な症例においても正確な病態診断を導くことが可能になると思われる。

日々の臨床に役立てられるよう、関連痛の典型的な症例を提示すると共に各病態で考えられうる関連痛のメカニズムを解説する。

シンポジウム3「三叉神経因性疼痛の病態および新治療法開発に関する考察」

1)イントロダクション
松香芳三:岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 顎口腔機能制御学分野
口腔顔面痛の臨床において、典型的な三叉神経痛に加えて、慢性的な強度の痛みを訴える三叉神経因性疼痛の対処においては選択可能な薬物が 少ないこと、薬物の副作用が強いことなどの問題を頻繁に経験する。本シンポジウムを通して、三叉神経因性疼痛の理解・新しい治療法に対する考察を深めたい と希望している。

まず、大久保昌和先生に三叉神経因性疼痛の診断と現在の日本での治療の限界に関する話をして頂きたいと希望している。その中では、三叉神経痛および持続的な強度な疼痛で、これといった治療方法が見当たらず、困窮している疼痛の診断・治療に関しても話をして頂く予定である。

次に坪井美行先生には三叉神経痛および三叉神経因性疼痛の病態解明に向けてのモデル動物における実験結果、および将来に向けての新治療法の開発を話して頂く予定である。

最後に坂本英治先生には現時点で実現可能な新しい治療法を話して頂く予定である。坂本先生の教室で調査・研究されているリドカインやATP製剤の点滴の治療効果もお話し頂きたいと希望している。

本シンポジウムが三叉神経因性疼痛患者の明日からの治療に役立つことを期待する

2)「三叉神経因性疼痛の診断と現在の日本での治療の限界」
大久保昌和:日本大学松戸歯学部 顎咬合機能治療学講座
神経因性疼痛は、神経系自体の損傷や機能障害に起因する疼痛と定義されている(IASP, 1994)。とくに、口腔顔面領域にみられる神経因性疼痛は神経因性口腔顔面痛またはその支配神経から三叉神経因性疼痛と呼称されているがその分類や診断 基準は統一されていないのが現状である。そのうち発作性三叉神経因性疼痛である“典型的”三叉神経痛の診断は比較的容易であるが、一方で一般的な歯科治療 に反応しない歯や歯周組織の痛み、または一般的な歯科治療後に生じた持続性の歯や歯周組織の痛みの診断は容易ではない。原因が特定できない口腔顔面痛を総 称して用いられる非定型顔面痛または非定型歯痛という用語が不適切であるとの考えから、米国口腔顔面痛学会ではこのような痛みの診断を行う際には、注意深 い病歴の聴取と疼痛発生源を同定するための局所麻酔を用いた診断的ブロック、さらには頸部の診査や脳神経のスクリーニング検査を行うことを提唱している。 本シンポジウムでは現在用いられている三叉神経因性疼痛の分類と診断基準、そして診断手順と疼痛管理について症例を交えて現在の日本の医療制度での治療の 限界と松戸歯学部の取り組みについて概説する。

3)「三叉神経因性疼痛の病態および治療法の開発」
坪井美行:日本大学歯学部生理学講座
神経因性疼痛は末梢神経や中枢神経の傷害によりおこるとされる。末梢神経への傷害により惹起される神経因性疼痛は末梢神経それ自体さらに は中枢神経にその発現機構を持つと考えられている。三叉神経領域は坐骨神経などの領域と比べ基礎研究があまり進んでおらず、いまだ不明な点が多い。その理 由として三叉神経の解剖学的形態や位置などにより、モデル動物の作製に困難を強いられているからである。三叉神経切断、絞やくモデル動物を用いた研究、さ らにモデル動物の作製が困難な病態(細胞体より中枢に原因がある場合)に関しては、坐骨神経で行われた研究を紹介する。これらの研究により、末梢神経傷害 による病態では切断端や細胞体でのチャネル変化、中枢神経活動の可塑的変化などが疼痛発現機構として推察される。切断端にその責任がある場合、再生医療を 用いた治療が試みられている。本発表ではモデル動物を用いた研究を基にさらなる新しい治療を考察する。

4)「三叉神経因性疼痛に対する現時点で可能な新しい治療法」
坂本英治:九州歯科大学生体機能制御学講座歯科侵襲制御学分野
三叉神経痛(TN)は代表的な非歯原性疼痛のひとつである。その治療法としては薬物療法、神経ブロック療法、脳外科的手術、放射線療法 (?ナイフ)などが患者の背景を考慮されながら選択されている。TN患者のなかには痛む時期と全く痛まない、あるいは痛みが軽い時期を交互に繰り返す周期 性をもつ症例も少なくなく、この痛む時期をなんとか凌ぎ、緩解期に移行させることを目的に保存的治療を選択される場合も多い。保存的治療では薬物療法が用 いられ、本邦ではカルバマゼピンの使用が広く行われているが、なかにはカルバマゼピンに反応しない症例や副作用から継続が困難な症例を我々は経験し、その 対応に難渋する。このようなTNに対してリドカインの緩徐静注の有効性を先の学術集会にて報告した。本シンポジウムではリドカインやATP製剤の点滴など の自験例や最近の知見からTNの保存的治療について検討する。

口演

演題O1-O4 15:00-15:32 座長:成田紀之

演題1)「QT延長症候群の非定型歯痛に高用量の塩酸ミルナシプランが奏効した1例」
井川雅子、山田和男:東京女子医科大学東医療センター 精神神経科
池内忍:静岡市立清水病院口腔外科
【緒言】

T延長症候群(LQTS)は、QT延長から失神や突然死を来す遺伝性疾患で、家族性突然死症候群の一つに分類されている。塩酸ミルナシプランが奏効した、LQTSを合併した非定型歯痛の症例を報告する。

【症例】

38歳、女性。主訴:右上74(65欠損)および周囲歯肉と、右舌根部の持続性自発痛。既往歴:小児期よりQT延長症候群と診断され、総合病院循環器科で経過観察中。家族歴:母親もQT延長症候群でペースメーカー装着。

現病歴2003年1月:追突事故で右肩を強打した。その際に食いしばったため、右上ブリッジ(6・5・4)が脱離。その後右上6の激しい痛みと、右の舌の付け根に焼け付くような痛みが発現した。

6月:6を抜歯するも改善せず。その後7に痛みが発現し、抜髄。痛みの部位はさらに54部に拡大。右の舌の付け根の痛みも持続。

2004-2005年:総合病院麻酔科で星状神経節ブロックを受けるも無効。

2005年12月6日:当科紹介受診。初診時の疼痛はVAS 72/100であった。ノルトリプチリン10-25mg/dayを処方。

2006年1月5日:舌の付け根の痛みは消失。歯痛はVAS28/100と改善しており、心電図でもQTc428とQT延長を認めなかったが、循環器科よりの要請でノルトリプチリンを中止。

1-5月:パロキセチン40mg/dayに切り替えたところ、疼痛悪化。ミルナシプランに変更。100mg/dで疼痛は41/100。150mg /dで13/100に改善するも、まだ痛みが持続していた。200mg/dに増量したところで、VAS 0-4/100と疼痛はほぼ消失した。

【結論】

QT延長症候群などにより、三環系抗うつ薬が禁忌の症例に対しては、ミルナシプランが代替薬となる可能性がある。

演題2)「筋電図周波数分析を用いた咀嚼筋痛発症に関する前向きコホート調査」
田邉憲昌、藤澤政紀、金村清孝、齋藤章人、石橋寛二:岩手医科大学歯学部歯科補綴学第二講座
【目的】

顎関節症の症状発現を予測する検査法について、前向き調査から分析した報告はみあたらない。そこで、前向きコホート調査により、筋電図(EMG)の周波数分析から咀嚼筋痛発現を予測するパラメータについて検討した。

【方法】

岩手医科大学歯学部学生の中で本研究の趣旨に同意が得られた204名(男性142名、女性62名、平均年齢20.0±2.1歳)を被験者とした。前向きコホート調査として調査開始時にEMGの測定を行い、2.5年経過後に再び顎関節症の発症の有無を追跡調査した。

EMG測定は表面電極を左右咬筋ならびに側頭筋に貼付し、最大咬みしめ時のEMGを導出後、周波数帯域ごとの経時的パワー変化を表す帯域別パワー比について分析した。

【結果】

204名中196名が2.5年後の調査に応じ、無症状が継続した無症状群が189名、2.5年後に新たに咀嚼筋痛が出現した症状発症群が7名、脱落者とアトピー等の皮膚疾患のため電極を貼付できなかった15名は分析から除外した。

EMGの分析結果から症状発現のリスクを表す相対危険度(RR)を算出した。その結果、咬筋、側頭筋いずれも帯域別パワー比の分類のIV型であったものが高いリスクを示した。

【結論】

帯域別パワー比の分類のIV型を示すものは筋の疲労による、低い咬合力しか発揮できない状態であることが考えられるため、咬筋、側頭筋いずれにおいても咀嚼筋痛を発症しやすいことが示唆された。

演題3)「掻痒感を主訴とし非定型歯痛様の特徴を呈した1例」
大島克郎、石井隆資、苅部洋行、岡田智雄、大津光寛、長谷川功、鈴木章、小川智久、吉田和正、宮内美登利、井出正俊:日本歯科大学附属病院 心療歯科診療センター
【緒言】

近年、非定型歯痛のように器質的疾患が認められないが口腔内の疼痛を訴える症例が多数報告されている。今回、我々は左上臼歯部の掻痒感を主訴とし、器質的疾患を認めず、抗うつ剤により症状が寛解した症例を経験したので報告する。

【症例】

主訴:左上臼歯部の痒感

患者は68歳女性。X-2年12月頃に上顎左側第二大臼歯部の痒感が発現した。A歯科医院にて経過をみてゆくも改善されず、X-1年7月、上顎左 側第二大臼歯を抜去した。しかし、抜歯後も症状の改善を認めなかったため、内科へ転科となり、CT、MRI検査にも異常を認めず、カルバマゼピン、抗不安 薬による薬物療法を開始したが症状は改善しなかった。X-1年10月、B歯科医院を受診し抜歯窩掻爬術を行ったところ、痒感はさらに増強し、X年2月、当 センター受診となった。まず、歯科口腔外科でエックス線診等により器質的疾患を除外した後に医療面接を行った。診断的局所麻酔の効果が不確実であったこと により、末梢性の神経機能異常を除外し、当センターと医療連携のあるペインクリニック科に対診した。三環系抗うつ剤である塩酸イミプラン投与により掻痒感 は減弱し、現在経過は良好である。

【考察】

本症例は、痒感が身体症状として表出された症例であり、患者自身が身体疾患を疑うも原因特定に至らず、悪循環を招いたと考えられる。原因が不明瞭な患者に対しては、治療の機を逃がさないために多角的視点からの評価が重要になると思われる。

演題4)「ラット三叉神経脊髄路核における興奮性アミノ酸遊離に対するSH基修飾の影響」
藤田豊大、石垣尚一、矢谷博文:大阪大学大学院歯学研究科 統合機能口腔科学専攻 顎口腔機能再建学講座
【目的】

我々はこれまで病態動物を作成し、末梢神経損傷に伴う神経因性疼痛の発症・維持に一酸化窒素(NO)が関与することを明らかにしてきた。本研究で は、その機構を詳細に検討するため、ラット三叉神経脊髄路核における侵害受容ニューロンからの興奮性アミノ酸遊離に対する種々の薬物の影響を調べた。

【方法】

SD系雄性ラットの下顎神経を縫合糸で結紮し、2週間後にウレタン麻酔下で結紮側と同側の三叉神経脊髄路核尾側亜核浅層領域にマイクロダイアリシ スプローブを挿入し、リンゲル液灌流液中の興奮性アミノ酸レベルをHPLCで分離測定した。薬物(NOドナー、NO消去薬、アルキル化剤、酸化剤、抗酸化 剤)は、灌流液中に添加した。1%カプサイシンクリームは、灌流側の下唇周辺に塗布した。

【結果】

カプサイシンクリーム塗布により、正常ラットに比べ病態動物において興奮性アミノ酸の有意な増加が観察された。カプサイシンクリーム塗布に伴う興 奮性アミノ酸の増加は、灌流液中へのNO消去薬、抗酸化剤の添加により有意に抑制された。また、NOドナー、アルキル化剤、酸化剤の灌流液中への添加によ り正常、病態動物のいずれにおいても有意な興奮性アミノ酸遊離の増加が観察された。

【結論】

ラット三叉神経脊髄路核におけるアミノ酸の遊離はシナプス開口放出関連たんぱく質のSH基の修飾により調節されることが示唆された。

演題O5-O8 15:34-16:04 座長:佐久間泰司

演題5)「脳外科受診を強く拒否する難治性の三叉神経痛の一症例」
関慎太郎、此原祥子、清水深雪、新崎公子、山田麻衣子、小谷田貴之、小林清佳、平林幹貴、小倉晋、石井達也、石垣佳希、阿部恵一、篠原健一郎、今井智明、三代冬彦、高橋誠治、中村仁也:日本歯科大学 歯科麻酔・全身管理科
【緒言】

三叉神経痛の症例には、原因も見つからず、その上疼痛管理が困難を極める症例が、存在する。当科にて約9年間の疼痛管理を行ってきた難治性の三叉神経痛の症例に対し、諸先生方より、ご意見を賜りたいと考えている。

【症例】

患者は97年、当院を受診し右側三叉神経痛として、加療を開始した。現在までの来院回数は約250回を超え相当数の局所麻酔ブロック、7回の卵円 孔ブロック、4回の正円孔ブロック、5回の眼窩下孔ブロックを行ってきた。来院前のMRIでは、特に原因は特定されず、当院では、減圧術非適応患者と考え てきた。患者には来院前よりカルバマゼピンのアレルギーがあり、最近の1、2年は、ヒダントール トリプタノール ツムラ(1)葛根湯にて、投薬管理して いる。しかし最近、発作は以前にも増して強烈になってきた。数年前より、再度、血管による圧迫を疑い、再度MRIを受けることを勧めてきたが、脳外科への 拒否感が強く先日まで、受けて頂けなかった。MRIの結果、今回も特に原因は見付からなかった。自宅では、キシロカインビスカスとリドカインのテープをも 使用しているが、疼痛管理は、困難を極める状況である。

【結語】

普通では疼痛管理が困難な症例や、様々な事情により思うように治療が行えない症例がある。しかし激痛をそのままに帰すことも出来ない。安全を損なわない限り、我々、臨床医は、教科書には無い多くの引き出しを持たなければならないと考える。

演題6)「非定型歯痛(AO)を発病した姉妹の症例」
井川雅子、山田和男:東京女子医科大学東医療センター 精神神経科
池内忍:静岡市立清水病院口腔外科
【緒言】

非定型歯痛(AO)の病態生理は未だ不明であるが、neuropathic painまたは、psychogenic pain (pain disorder)とする説が主流である。後者の理論的根拠としては、外傷の既往がなくても発生する、再発を繰り返すなどがあげられている。今回われわれ は、姉妹でAOを発病した例を経験したので報告する。

【症例】

妹(41歳):主訴、右上56部の持続性疼痛(VAS 77/100)
1998年3月(34歳時)、離婚係争中に健全な右上56にじわじわじんじんする痛みが突然発現。
7月、抜髄するも疼痛が持続し、56を順次抜歯をしたが、抜歯後も疼痛には改善が見られず。
2000年5月(36歳時)当科初診、薬物療法開始。
2003年1月アミトリプチリン100mg/dayで疼痛が消失した。
その後2003年10月、2005年にその都度契機となるストレッサーがあり、AOが再発。いずれもアミトリプチリンで疼痛消失。

姉(43歳):主訴、左上6の持続性疼痛(VAS 41/100)
2002年10月(40歳時)、妹がAOで苦しむ様子を見ていたら左上6にVAS 28も痛みが発現。
2003年2月、歯科受診。cariesといわれ抜髄するも、抜髄後も痛みが持続するため、6月別の歯科医院に転院。根充すると痛むため根治を続けていた。
8月、当科受診。副作用により薬物療法を続けられず、通院中断。
2005年10月(43歳時)疼痛悪化。通常はVAS 41だが、89/100の時もあるため再受診。
2006年6月現在 アミトリプチリン150mg/dayで治療中。

【結論】

妹はストレッサーを契機にAOを発病、再発を繰り返し、姉はその様子を見てAOを発病している。姉妹ともに歯科治療などの先行する外傷の既往はなく、本症例の場合、遺伝・環境・感応などのpsychogenicな要因がAO発症の原因と推定される。

演題7)「日本大学歯学部付属歯科病院ペインクリニック科の臨床統計的検討」
本田和也:日本大学歯学部ペインクリニック科
坪井栄達、小川明子、篠崎貴弘、阿部郷:日本大学歯学部ペインクリニック科、口腔診断学講座
荒川幸雄、原和彦、市川太、小池一喜:口腔診断学講座
大井良之:日本大学歯学部ペインクリニック科、麻酔学講座
【目的】

日本大学歯学部付属歯科病院ペインクリニック科は2002年に開設され、約3年間経過した。この3年間の間にペインクリニック科に来科し、画像診 断をおこなった患者を対象に診療録をもとにretrospectiveに検討した。また、画像所見が有効であった1例についてその詳細について報告する。

【方法】

対象は、2002年7月から2006年6月までの3年11ヵ月間に本学付属歯科病院ペインクリニック科に来科した患者のうち、医療面接ならびに口 腔内外診査で神経学的症状が疑われた症例についてMRI検査をおこなった患者の診療録をもとにretrospectiveに患者の性別、年齢、病名、罹患 部位、画像所見について調査した。

【結果】
  • 59名の男女比は、男性18名(30.5%)、女性は41名(69.5%)と女性に多くみられた。年齢分布は、60歳代が最多の27名で全体 の45.8%を占めており、次いで70歳代が13名(22%)、40歳代が7名であった。平均年齢は62.17歳で最低年齢は30歳、最高年齢は82歳で あった。
  • 59名の診断名は、三叉神経痛45例と全体の76.2%を占めており、群発頭痛2例、三叉神経麻痺1例など多種の患者が認められた。
  • 罹患部位は、罹患側は右側が30例50.8%で、左側27例45.8%で、両側性は2例であった。
  • 画像所見は、異常像が認められた症例は39例、認められなかった症例が20例であった。
【結論】

顎顔面領域の疼痛は増加の傾向にあり、当科では三叉神経痛の患者の来科が多かった。また、診断に際してはMRIやMRAなどの画像検査を行い、脳病変の有無を把握することが重要と考えられた。

演題8)「顎関節疾患・口腔顔面痛外来患者の臨床統計 第1報当科受診までの治療歴」
和田知子、村岡渡、池田浩子、木附良子、田上亜紀、中川種昭、和嶋浩一:慶應義塾大学医学部歯科口腔外科学教室
【目的】

1次診断で患者の主訴とする痛みに見合う病態が確定できなかった例について当科受診までの受信歴、治療歴等を明らかにする。

【方法】

2003年から2005年の3年間に痛みを主訴として当科顎関節疾患・口腔顔面痛外来を受診した初診患者のうち、1次診断で患者の主訴に見合う病 態が確定できなかった180例について、初診時主訴、発症から当科受信までの期間、他院の受信歴の有無、受信施設数、治療の種類等を調査した。

【結果】

初診時主訴は、歯の痛み(54人30%)、顔面の痛み(52人29%)が最も多く、次に歯肉の痛み(25人14%)、顎関節の痛み(23人13% )、その他に 頭痛・咬合不良・舌の痛み・口腔の違和感/痛み・開口障害・顎異常運動/などであった。 対象180人のうち144人(80%)が他院を受診したことがあり、歯科のみを受診したもの87人60%、歯科・医科の両科を受診したものが40人 28%、医科のみを受診したもの16人11%であった。144人が受診した延べ339箇所では、「未処置」97件、鎮痛剤以外の薬物処方52件、抜髄 51件、不可逆的咬合治療 41件、抜歯 25件等であった。

【結論】

対象患者の80%が当科受診までに複数の医療機関を受診していた。1/3の患者は確定診断が得られないため積極的な治療を受けていなかった、他の2/3は何らかの処置をうけていて、歯の痛みに対して抜髄・抜歯を行われている例も相当数認められた。

演題O9-12 16:08-16:40 座長:正司喜信

演題9)「TMD診査における新開発携帯式唾液アミラーゼ分析装置の有用性」
杉山優子、橋本和彦、木附良子、村岡渡、池田浩子、田上亜紀、中川種昭、和嶋浩一:慶應義塾大学医学部歯科口腔外科学教室
【目的】

携帯式唾液?―アミラーゼ活性分析装置〈Cocorometer〉を用いて、慢性筋性TMD患者における実験的ストレスに対する?―アミラーゼ活性の変化を評価すると同時に、Cocorometerのストレス評価の有用性を検討することを目的に本研究を行った。

【方法】

対象はすべて女性で、慢性筋性TMD患者20名(平均年齢32.5±15.7歳)と健常者15名(平均年齢22.8±8.2歳)であった。実験的精神ストレスとして、5000-17の連続暗算を15分間負荷し、負荷前後に?―アミラーゼ活性を測定した。

【結果】

ストレス負荷前の唾液?― アミラーゼ活性値は慢性筋性TMD群、対照群ともほぼ同程度の値であった。一方、ストレス負荷後では、対照群ではほとんど変化するものがなかったのにたい して、慢性筋性TMD群では、活性値が著しく高くなるものと、ほとんど変化しないものが認められた。慢性筋性TMD群と対照群の精神的ストレス負荷後の比 較で有意差を認めた。

【結論】

今回の検討により、慢性筋性TMD患者はストレスに強く反応することが示された。Cocorometerは唾液アミラーゼ活性を簡便に、迅速に測 定できるモニターであることが判った。そして、唾液アミラーゼ活性測定が筋性TMDとストレスとの関係の研究に有用であることが示唆された。

演題10)「ケタミンのイオン導入が有効であった帯状疱疹後神経痛の2症例」
椎葉俊司、坂本英治、坂本和美、大津ナツミ、長畑佐和子、吉田充広、仲西修:九州歯科大学 生体機能制御学講座歯科侵襲制御学分野
【はじめに】

帯状疱疹患者の大部分は、皮疹の治癒とともに痛みも消失するが帯状疱疹患者の中には、帯状疱疹の治癒後も長年にわたって帯状疱疹後神経痛 (post herpetic neuralgia、以下、PHN)に悩まされることがある。PHNに対して様々な治療が行なわれるが、治療に対し抵抗性を示し難治性であることが多い。 今回、われわれはケタミンイオン導入が効果的であったPHNの2症例を経験したので報告する。

【方法】

イオン導入後の疼痛程度をVASで評価した。また電流刺激閾値を測定した。

【結果】

ケタミンイオン導入を1回/週で10回行なった時点で疼痛が軽減したため1回/2週間に間隔を拡げた。さらに間隔を拡げイオン導入からの weaninngを計る予定であったが間隔を拡げると症状が強くなるため、現在でもイオン導入を継続中である。ケタミンのイオン導入後、電流刺激閾値が上 昇した。

【考察】

ケタミンは中枢神経で鎮痛効果や全身麻酔作用を発揮するが、ケタミンイオン導入によって電流刺激閾値が上昇したことから末梢での局所麻酔様作用を 有すると可能性がある。ケタミンのNa+やK+のSodium channel遮断の報告があり、その神経活動電位抑制機構は神経興奮膜への遮断と考えられる。ケタミンは電流刺激閾値を上昇させるが、時間経過とともに 回復することより可逆性のSodium channel遮断と思われるが、継続時間が長いことや、繰り返しの使用で症状の軽減があることより他の機序もある可能性もある。

【まとめ】

PHNにケタミンイオン導入が有効な可能性がある。

演題11)「顎関節疾患・口腔顔面痛外来患者の臨床統計第3報 治療成績」
池田浩子、和田知子、村岡渡、木附良子、田上亜紀、中川種昭、和嶋浩一:慶應義塾大学医学部歯科口腔外科学教室
【目的】

病態診断が確定した疼痛症例における病態毎、治療法毎の治療成績を明らかにする。

【方法】

2003年から2005年の3年間に痛みを主訴として当科顎関節疾患・口腔顔面痛外来を受診した初診患者のうち、1次診断で患者の主訴に見合う病 態が確定できなかった180例について、病態診断を行い、それぞれに応じた治療を行った。主訴毎、病態診断毎、治療法毎の治療成績を調査した。

【結果】

初診時主訴は、歯の痛み(54人30%)、顔面の痛み(52人29%)が最も多く、次に歯肉の痛み(25人14%)、顎関節の痛み(23人13% )、その他に 頭痛・咬合不良・舌の痛み・口腔の違和感/痛み・開口障害・顎異常運動/などであった。 病態別に集計すると、筋・筋膜疼痛53名29%、 神経因性疼痛24名13%、発作性神経痛17名9%、心因性疼痛28名16%等であった。

筋・筋膜疼痛に対しては筋緊張緩和、負荷軽減、ストレッチなどのセルフケアおよび三環系抗うつ薬、神経因性疼痛に対しては三環系抗うつ薬を中心と した薬物療法、発作性神経痛に対してはカルバマゼピンを中心とした薬物療法等を行った。発作性神経痛の治療は従来通り薬物療法は有効であった。筋・筋膜疼 痛の多くはセルフケアに反応した。

【結論】

セルフケアに反応せず三環系抗うつ薬を投与した症例、および薬物療法を行った神経因性疼痛の治療成績について詳細に検討し、知見を得た。

演題12)「顎関節疾患・口腔顔面痛外来患者の臨床統計 第2報 主訴と病態診断」
和田知子、村岡渡、池田浩子、木附良子、田上亜紀、中川種昭、和嶋浩一:慶應義塾大学医学部歯科口腔外科学教室
【目的】

1次診断で患者の主訴とする痛みに見合う病態が確定できなかった例について当科受診時の主訴に対する病態診断を明らかにし、主訴による特徴を明らかにする。

【方法】

2003年から2005年の3年間に痛みを主訴として当科顎関節疾患・口腔顔面痛外来を受診した初診患者のうち、1次診断で患者の主訴に見合う病態が確定できなかった180例について、当科受診時の主訴に対する当科の病態診断を調査した。

【結果】

初診時主訴は、歯の痛み(54人30%)、顔面の痛み(52人29%)が最も多く、次に歯肉の痛み(25人14%)、顎関節の痛み(23人13% )、その他に 頭痛・咬合不良・舌の痛み・口腔の違和感/痛み・開口障害・顎異常運動/などであった。

歯の痛みを主訴とする54人の病態診断は、筋・筋膜疼痛44%、神経因性疼痛20%、心因性疼痛15%等であった。

顔面の痛みを主訴とする52人の病態診断は、筋・筋膜性疼痛と心因性疼痛がそれぞれ26%、舌因神経痛12%・三叉神経痛8%で神経痛が計20%、等であった。

歯肉の痛みを主訴とする25人の病態診断は、筋・筋膜疼痛16%、神経因性疼痛40%、心因性疼痛24%等であった。

顎関節の痛みを主訴とする23人の病態は,筋・筋膜疼痛47%、滑膜炎、舌咽神経痛がそれぞれ13%等であった。

【結論】

痛みの主訴毎に病態診断の構成に差異が認められ、歯の痛み、顎関節の痛みでは筋・筋膜疼痛が半数を占め、歯肉の痛みでは神経因性疼痛が最も多く心因性疼痛も多く認められた。

ポスター

1)口腔顔面痛を主訴に来院した患者の男女差:第一報
正司喜信:正司歯科/口腔顔面痛センター
加藤隆史:松本歯科大学総合歯科医学研究所
【緒言】

これまでの報告によれば、痛みの感受性、頻度、持続期間や慢性痛の発症頻度においては明らかな性差が存在する。女性に多い疼痛性疾患としては、非 定型歯痛や片頭痛あるいは舌痛症などがある。また男性では群発頭痛などが挙げられる。今回、口腔顔面痛を主訴に歯科に来院する患者においてもこのような男 女差が存在するのかどうか、という点を検証した。

【方法】

過去1年間に歯痛を除く口腔顔面の疼痛を主訴に口腔顔面痛センターを受診した患者のうち、連携先(医科)でのものも含め一次診断が明らかとなった89名の男女比を調査した。さらに、一次診断をもとに疼痛タイプ別の男女比も調査した。

【結果】

患者全体(n=89)の男女比は1:4で女性が有意に多かった。疼痛タイプ別の男女比は、筋骨格性疼痛(n=47)が1:4、神経血管性疼痛(n=15)が1:4、神経因性疼痛(n=12)が1:11、心因性疼痛(n=15)が1:1、であった。

【結論】

口腔顔面痛患者における男女比は女性が有意に多かった。一方で、疼痛の種類によって男女比が異なる可能性が示唆された。このように疼痛の種類に よって性差が存在するとすれば、口腔顔面痛の成因や症候とあわせて診断や治療で考慮すべき重要な点であると思われるので今後検討を進めたい。

2)三叉神経節神経細胞の遺伝子発現変化 ―炎症と神経損傷による比較―
奥村雅代、金銅英二松本歯科大学総合歯科医学研究所顎口腔機能制御学部門
島麻子、岩田幸一:日本大学歯学部生理学教室
【目的】

炎症及び神経損傷時の痛覚過敏の発症メカニズムを明らかにする目的で、三叉神経節細胞の遺伝子発現動態を比較検討した。

【方法】

SD雄性ラットを用い、神経損傷(下歯槽神経切断)、慢性炎症(上口唇へのCFAの注入)、および急性炎症(上口唇へのカプサイシンの注入)、そ れぞれのモデルラットを作成した。処置後3日目に各ラットから三叉神経節を摘出、RNAを抽出し、その遺伝子発現の変化をマイクロアレイを用いて網羅的に 解析、比較した。

【結果】

各モデル動物共に発現量が変動する多くの遺伝子が同定された。特に慢性炎症モデルで最も多くの遺伝子が発現変動しており、転写因子自体のmRNA の増減も多かった。また他のモデルと比較して、細胞骨格、細胞外基質、細胞接着分子群においても発現変動が多数みられた。慢性炎症モデルと急性炎症モデル では共通する遺伝子において発現が減少するものが多数みられたが、その他には特に各モデルに共通するものは検出されなかった。

【結論】

これら3種のモデル動物はいずれも疼痛モデル動物として用いられるが、各種刺激が三叉神経節細胞に与える影響はかなり異なっているものと考えられ る。また、変動がみられた遺伝子群を見ると、三叉神経節細胞は慢性炎症時には細胞骨格系の変化が著しく、細胞の形態や機能にまで影響を与えている可能性が 考えられる。

3)星状神経節ブロックの効果および嗄声に及ぼす因子ついての検討
坂本和美、坂本英治、椎葉俊司、萩原正剛、仲西修:九州歯科大学 生体機能制御学講座歯科侵襲制御学分野
【目的】

星状神経節ブロック(SGB)はorofacial painに対して行われている治療法である。一方合併症もあり、場合によってはそれは致死的で習熟が必要である。なかでも嗄声は比較的高頻度に生じ、それ を不快感として強く訴える患者もある。SGB後頭部挙上や注入時に肩に響くようにするなどが嗄声を避け、効果的なSGBを行う工夫とされているがその詳細 な検討は少ない。その効果および合併症、特に嗄声に影響を及ぼす因子について検討した。

【方法】

1%カルボカインを用いたSGB325症例の効果(ホルネル兆候、充血の有無)と嗄声の出現について効果(-)群、効果(+)嗄声(-)群、効果 (+)嗄声(+)群の3群に分類し、1)性別,2)頚部の円周径3),左右,4)ブロック高(C6,7),5)局麻量,6)横突起の触知および骨面の当た り,7)放散痛の有無,8)SGB後の頭の位置の7因子について各群で比較した。

【成績】

性別、頚部の円周径、局麻量、横突起の触知および骨面の当たりについては効果および嗄声の発生に統計学的有意差を認めた。一方左右、ブロック高 (C6,7)、放散痛の有無、SGB後の頭の位置に統計学的有意差を認めなかった。またその結果から患者ごとに性別、頚部の円周径、局麻量を考慮して SGBを行い、考慮しない場合と比較すると有意に嗄声発生は減少した。

【結論】

SGBの効果に影響する様々な因子を考慮することでより精度の高い治療を施行ができる。

4)損傷下歯槽神経再生過程における延髄侵害受容ニューロンの可塑的変化
齋藤仁子、人見涼露、寺本浩平、植田耕一郎:日本大学歯学部摂食機能療法学講座
岩田幸一:日本大学歯学部生理学講座
【目的】

損傷下歯槽神経再生過程に発症する異常疼痛の神経機構を明らかにすることを目的とし、下歯槽神経(IAN)切断モデルラットの三叉神経脊髄路核ニューロンを解析した。

【方法】

ラットのIANを切断後し、下顎管に切断面を接合させて戻す。術後1日~60日の機械刺激による逃避行動を観察した。また、3日、14日および 60日目において、下唇相当部を含む顔面領域の侵害刺激に応答する三叉神経脊髄路核尾側亜核(Vc)ニューロンを同定した。各経日群におけるニューロンの Background Activity(BG)、機械刺激に対する応答性および受容野特性について検討した。

【結果】

IAN切断後1~3日後では機械刺激の対する逃避閾値はわずかに高くなり、術後14日では有意に低下した。この閾値の低下は30日以上続いた。 IAN切断後3日目、7日目には、下唇相当部を含む顔面領域に受容野を持つ侵害受容ニューロンは検出されなかったが、14日から60日目において検出率が 増加した。WDRのBGは、切断後14日目で最も高くなり、60日目で正常のレベルに戻ったが、機械刺激に対する応答は、切断後14日から60日目まで比 較的高い値を示した。下唇相当部を含む顔面領域に受容野を持つWDRは、切断後14日目で拡大し、60日目において縮小し、ほぼ未処置ラットのレベルに 戻った。

【考察】

IANの損傷は、温度および機械受容に対して機能的に異なる作用を与え、口腔顔面領域に異常疼痛をもたらす可能性が示された。

5)摂食・嚥下関連筋の侵害入力によって駆動される三叉神経脊髄路核および上部頚髄ニューロンの分布
辻村恭憲、中川量晴、寺本浩平、植田耕一郎:日本大学歯学部摂食機能療法学講座
岩田幸一:日本大学歯学部生理学講座
【目的】

摂食・嚥下痛発症の神経メカニズムを明らかにすることを目的とし、ラットの摂食・嚥下関連筋にカプサイシンを微量注入し、リン酸化ERK(pERK)の発現様式を延髄および上部頸髄後角において免疫組織学的に検索した。

【方法】

ネンブタールで麻酔(50ml/kg ip)したSD系雄性ラットの左側咬筋、顎二腹筋、舌筋、胸骨舌骨筋および口髭部皮下へカプサイシンを微量 注入(20?l)し、注入6分後にラットを灌流固定し、脳の摘出後、上部頚髄から延髄領域にかけて30?mの連続切片を作製し、pERK免疫染色を行っ た。

【結果・考察】

各筋における吻尾側におけるpERK-LICellsの吻尾的分布は、咬筋・顎二腹筋・舌筋・口髭部において、それぞれObex尾側10800~ 吻側1440、尾側8640~吻側1440、尾側12240~吻側2160、尾側8640から吻側720の範囲で、尾側2880、尾側 2160、±0(Obex)、尾側1440をピークとした単峰性の分布様式を示した。胸骨甲状筋においてはObex尾側11520~吻側1440の範囲 で、尾側5760および尾側2160においてピークを示した。以上の結果から、摂食・嚥下関連筋の疼痛発症に関与する延髄および上部頚髄侵害受容ニューロ ンは吻尾的に不明瞭ではあるが、体部位局在性配列をなしていることが示唆された。

6)発作性片側頭痛-チック症候群の1症例
土井充、冨永晋二、、野上堅太郎、真鍋庸三、谷口省吾:福岡歯科大学 診断・全身管理学講座 麻酔管理学分野
布巻昌仁:社会保険 小倉記念病院 麻酔科
発作性片側頭痛は、群発頭痛に類似した、自律神経徴候を伴う頭痛のひとつである。今回、発作性片側頭痛に三叉神経痛が併発する、発作性片側頭痛-チック症候群の1症例を経験したので報告する。

症例は、33歳、女性、専業主婦。既往に特筆すべき事項はない。現症として、5ヶ月前からの右側上顎洞から眼窩にかけての激痛発作を認めた。発作 は1日5~10回ぐらいで、2分~5分程度持続し、食事、会話、冷水、温水、歩行で誘発されることがあり、流涙を伴った。また、当科初診までの間に、3カ 所の歯科で歯原性由来と診断され、歯内療法、抜歯などが行われていた。当初は、慢性発作性片側頭痛と考え、インドメタシンファルネシル400mgの投薬で 治療を開始し、発作の頻度と痛みの強さの減弱を認めたが、それ以上の変化はなかった。更に、ベラパミル120mgを追加したが軽度の効果しか認められな かった。そこで、発作性片頭痛-チック症候群の中でも、両者の発作が同時に起こるタイプである可能性を考え、ベラパミルの投薬を中止、カルパマゼピンを追 加投与し、300mgまで増量したところで、疼痛発作は完全に消失した。

発作性片側頭痛-チック症候群はこれまでにも報告されているが、発作性片側頭痛と三叉神経痛の合併の病態についてはまだ明らかではない。本症例は、両症状に対する投薬治療を行うことで、発作は良好にコントロールできた。

7)疼痛性障害および大うつ病性障害と診断された後、歯科に紹介された患者に対する対応:症例報告
築山能大、山田昭仁、市来利香、古谷野潔:九州大学大学院歯学研究院 口腔機能修復学講座 咀嚼機能再建学分野
九州大学病院心療内科にて疼痛性障害および大うつ病性障害と診断され、当科に歯科的処置を目的で紹介された患者への対応について報告する。

【症例】

68歳、女性。X年4月、当院心療内科に入院。「疼痛性障害」および「大うつ病性障害」と診断され、抗うつ薬を主体とする薬物療法を受けていた。 患者は上顎前歯の欠損部の疼痛および右側眼部の引きつるような疼痛は歯が原因で起こっているのではないかと担当医師に執拗に訴えていたため、同年5月当科 に紹介。当科初診時、口腔乾燥感、特に上顎前歯部のブリッジの形態不良により口腔乾燥が生じているためブリッジの再製作が必須であると執拗に訴えた。口腔 内診察にて、上顎前歯欠損部の持続性疼痛(覚醒時のみ自覚、咀嚼時は消失)が著明であった。X線検査にて同部の異常所見は認められなかった。また、プラー クコントロールが不良で全顎的に歯周疾患がみられた。神経学的検査にて知覚異常は認められなかった。以上から、歯の欠損部の疼痛は「疼痛性障害」および 「大うつ病性障害」の身体化症状であることが推察された。なお、X年1月に口腔乾燥感を訴えてA大学病院顎顔面口腔外科を受診していたが、疼痛性障害およ び大うつ病性障害に関しては一切認識されていなかった。

【経過】

現在、カウンセリングと歯周基本治療を主体に可逆的保存治療を行っており、精神疾患が落ち着いた時点で全顎的補綴治療の是非を再考する予定である。

8)損傷下歯槽神経再生過程における三叉神経脊髄路核および上部頚髄侵害受容ニューロンの興奮性変化
人見涼露、齋藤仁子、寺本浩平、植田耕一郎:日本大学歯学部摂食機能療法学講座
岩田幸一:日本大学歯学部生理学講座
【目的】

抜歯をはじめとする様々な口腔外科手術の時に下歯槽神経が損傷を受け、顔面領域に様々な異常疼痛を引き起こすことは臨床の場においてしばしば起こ る。この発症機序を解明するために多くの研究がなされているが、その詳細なメカニズムについては不明な点が多く残されている。本実験では、その神経機構を 明らかにすることを目的とした。

【方法】

下歯槽神経切断モデルラットを作製し、顔面領域の異常疼痛およびカプサイシン刺激により三叉神経脊髄路核(Vc)、上部頚髄(C2)に発現するpERKの分布様式を検索した。

【結果】

下歯槽神経切断後1日から60日まで、切断側オトガイ部、口角部への機械的非侵害刺激に対する逃避閾値は低下した。非切断側では両部位において逃 避閾値の変化はほとんど認められなかった。また、オトガイ部へのカプサイシン注入により、Vc,Vc/C2背内側部にpERK陽性細胞が観察された。下歯 槽神経切断後3日ではpERK陽性細胞はほとんど認められなかったが、7日、14日と徐々に増加し30日後では切断前の2倍のpERK陽性細胞が確認され た。また60日後には切断前の発現量程度に戻った。

【結論】

損傷下歯槽神経再生過程に発症する異常疼痛には、三叉神経脊髄路核および上部頚髄に分布する侵害受容ニューロンでのMAPキナーゼ活性が強く関与する可能性が示された。

9)顎関節炎によるA-type K+ 電流の減少に起因した小型三叉神経節ニューロンの興奮性の増加
武田守、角井淳、高橋誠之、松本茂二1:日本歯大 生命歯 生理
那須優則:共同研セ
【目的】

顎関節炎に誘導される関節支配の小型三叉神経節(TRG)ニューロンの興奮性の増強への電位依存性K+電流関与について穿孔パッチクランプ法を用いて解析した。

【方法】

CFA をラットの顎関節腔に注入し顎関節炎を誘発させた。対照群には生食を投与した。炎症誘発2日後、顔面皮膚に加えた機械刺激に対する逃避閾 値によりアロデニアを判定した。顎関節を支配する小型TRGニューロンを蛍光色素Fluorogold (FG)により標識後、炎症側のTRGを急性分離 し、電位依存性K+電流(IA, IK)及び、スパイク発火頻度、閾値を対照群ラットと比較した。

【結果】

炎症群FG陽性小型TRGニューロンの電位依存性K+電流密度(IA)は、対照群に比較して有意に減少し、IA不活性化曲線は対照群に比較して過 分極側に左方変位していた。また炎症群ラットのスパイク発火閾値は対照群に比較して有意に減少し、脱分極パルスに対する発火頻度も有意に増加していた。炎 症TRGニューロンにおけるこの効果は対照群TRGニューロンへのIAチャネル拮抗薬(4-aminopyridine, 0.5mM)投与により再現できた。

【結論】

顎関節炎誘導による関節支配の小型TRGニューロンの興奮性増大は、主に IA電流の減少に起因しており、痛覚過敏/アロデニアの発現に関与することが示唆された。

10)歯内療法領域の痛みを再考する
長谷川誠実:兵庫医科大学歯科口腔外科学講座
【目的】

兵庫医科大学病院は、特定機能病院として紹介患者の治療を中心に行っている。そこで、紹介患者を整理し、紹介症例における痛み治療を分類検討することで、地域の歯科医療機関が求める専門としての歯内療法のありかたについて考察できるものと考えた。

【方法】

まず平成14年1月4日から平成16年12月28日までに兵庫医科大学病院歯科口腔外科を紹介来科した患者の中から、歯内療法領域のものを選別し、それら紹介患者を依頼内容別に分類し、さらに痛み治療に該当する症例について詳細に分析を行った。

【結果】

歯内療法領域で紹介を受けたものは全73例。その内訳は、根管内異物除去が10例、解剖学的異常が7例、比較的大きな歯根嚢胞が11例、パーフォ レーションや歯根破折を含む器質障害20例、歯根の外部吸収および内部吸収2例、関連痛が疑われるもの15例、根管充填後の自発痛3例および有病者の根管 治療5例であった。それらの中で、痛みの原因として、過剰根管充填、残髄、根尖破壊、ストリップパーフォレーション、歯牙の亀裂あるいは破折、関連痛が考 えられた。

【結論】

歯内療法領域の難治性の自発痛の原因の主なものは歯牙の器質障害であり、また関連痛も多く認められた。破折歯の歯内療法の確立と歯髄炎様疼痛を示す関連痛の整理が急がれる。

11)頸神経傷害後の三叉神経領域の痛覚閾値に関する研究
今村佳樹、小川明子、市川太、野村洋文、坪井栄達:日本大学歯学部口腔診断学教室
鈴木郁子、岩田幸一:日本大学歯学部生理学教室
【目的】

臨床的には、頸神経領域の組織に由来すると考えられる口腔顔面痛が見られることがある。しかしながら、頸神経由来の口腔顔面痛に関する実験的研究 は報告を見ない。この研究では、頸神経に機械的に損傷を加えて、三叉神経領域に痛覚閾値の変化が見られるかを検討することを目的とした。

【方法】

体重250-350gのSD系ラットを用いて麻酔下に左側頸神経を剖出し、C3-C6をそれぞれ近遠心2箇所で結紮した後に、その間で切断した。 14日経過した時点で、左側顎関節部にvon Freyフィラメントを用いて非侵害刺激を加え、その後に灌流固定した(I群)。また同様にsham opを施して頬部を刺激した群(S群)を設定し、これらの群における延髄から頸髄にかけてのc-fos発現を観察した。併せて、術前より実験環境への馴化 を図り、術前と術後14日で頬部におけるvon Freyフィラメントに対する痛覚閾値を比較した。

【結果】

I群では同側の三叉神経脊髄路核尾側亜核(Vc)から上部頸髄にかけてc-fosの発現を見たが、S群では同様のc-fos発現を見なかった。一方、I群では、von Freyに対する痛覚閾値にも有意な低下を認めた。

【結論】

頸神経損傷により、三叉神経領域にも痛覚閾値の低下が見られ、患側のVcから上部頸髄にかけてc-fos発現が見られたことは、頸神経領域由来の口腔顔面痛の病態を部分的に説明するものと考えられる。

12)ラット眼窩下神経CCIモデルに対するホルマリン刺激
讃岐拓郎、佐久間泰司、安東大器、姜 由紀、小谷順一郎:大阪歯科大学歯科麻酔学講座
【目的】

ラットCCIモデルは化学刺激に対して疼痛閾値が低下することが報告されている。しかし、今まで用いられた化学刺激物質はマスタードオイルが主で あり、その他の化学刺激物質を用いた研究は少ない。本研究は、三叉神経領域のCCIモデルである眼窩下神経CCIモデルに対し、化学刺激物質であるホルマ リンを投与し、疼痛行動量がどのように変化するか検討した。

【方法】

結紮手術を行う群をOP群,模擬手術のみ行う群をSO群、手術を行わない群をNO群とした。1日目に全群に対してまずvon Frey testを,次いでformalin 50??を投与しformalin test行った。2日目にOP群に対し結紮手術を、SO群に対して模擬手術を行った。そして7日目に1日目と同様全群に対してvon Frey test,次いでformalin testを行った。

【結果】

1日目のformalin testでは3群とも2相性の疼痛行動を示し、3群間に有意差はみられなかった。7日目のformalin testではNO,SO群は測定1回目と同様、2相性の疼痛行動を示したのに対し、OP群は第1、2相の両相で有意な疼痛行動の低下がみられた。

【結論】

眼窩下神経モデルにホルマリンを投与しても疼痛行動は増加せず,ホルマリンは眼窩下神経CCIに対しchemical hyperalgesiaを誘発しないことが示唆された。

13)舌痛症と診断されていた脳幹の空間占拠性病変の一例
荒川幸雄、小川明子、篠崎貴弘、坪井栄達、宮田幸忠、八木忠幸、河  口博昭、海野聡子、松浦信人、今村佳樹:日本大学歯学部口腔診断学教室
【はじめに】

脳幹部腫瘍は脳神経を巻き込んで多様な症状を呈することが考えられる。今回、我々は三叉神経痛様の疼痛を呈することなく、舌痛症と診断されて経過を見られていた脳幹部腫瘍の患者を経験したので、報告する。

【症例】

症例は69歳の女性で、主訴は舌尖部の疼痛と左側上下口唇の痺れであった。現病歴は、平成17年4月より舌尖から左側舌縁にかけて感覚の低下を自 覚するようになり、近医口腔外科を受診した。口腔内外診査において明らかな異常は診られなかったため、舌痛症と診断された。1年間経過を観察したが、症状 に変化が見られないため、当科を受診した。疼痛は時々舌尖部に自覚するとの事であった。食事の際には舌の痺れが強くなり、特に唐辛子を食すると痺れが強く なる。醤油がしみるが、熱いものや冷たいものでは異常はない。味覚が減退している感じがある。既往歴では、5年前にプールに通っているときに左側中耳炎に 罹患し、今年3月に慢性中耳炎と診断された。

【経過】

現症は、von Freyフィラメントによる触覚閾値検査で左側上下口唇に閾値上昇が見られ、電流認識閾値検査では明らかな左右差は見られなかった。Weber testで右側への偏位が見られたため、MRI検査を依頼したところ、左側小脳橋角部に3×5cm大の空間占拠病変が認められた。

【結論】

舌痛症様の訴えをする患者の中には、実際に感覚異常を呈する患者も含まれる。これらの患者には慎重に診査を行い、神経学的に異常が疑われる場合には、早期に精査を行うべきである。

14)三叉神経痛患者におけるMRI画像解析による解剖学的特徴の検索
山崎陽子、芝地貴夫、嶋田昌彦:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科口腔機能再建学講座疼痛 制御学分野
深瀬康公:日本大学歯学部歯科理工学教室
【目的】

三叉神経痛は、激烈な痛みを伴う顎顔面領域の疾患の一つであり、その原因は三叉神経根部における血管の接触もしくは圧迫であると言われている。臨 床において三叉神経痛と診断する際には、問診上での特徴的な疼痛パターンの訴えに加え、MRI画像上での三叉神経根部の神経と血管の位置関係が重要な診断 根拠の一つとなる。本研究では臨床所見より三叉神経痛が疑われた患者のMRI画像を用いて、三叉神経根部と三叉神経痛の発症因子と思われる血管の、解剖学 的位置関係の特徴を検討することを目的とする。

【方法】

2006年4月から7月までに、東京医科歯科大学歯学部附属病院ペインクリニックにて三叉神経痛が疑われた患者7名のMRI画像を用い、原因血管の種類を分析し、三叉神経根部における接触もしくは圧迫部位の特徴を検討した。

【結果】

7例中6例は動脈が原因血管であり、1例のみ原因血管が特定不可能であった。主たる原因血管は上小脳動脈および前下小脳動脈であった。また接触もしくは圧迫部位は、画像で確認可能な三叉神経根のroot entry zoneに存在する症例が多く認められた。

【結論】

三叉神経痛が発症する原因として、MRI画像上で確認される解剖学的特徴は、さまざまな文献が示しているとおり、三叉神経根部のroot entry zoneにおける上小脳動脈および前下小脳動脈の接触もしくは圧迫が認められる確率が高いことが示唆された。

15)線維筋痛症患者と慢性疼痛患者の睡眠状態
大倉一夫、坂東永一、竹内久裕、安陪晋:徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部 生体システム栄養科学部門 摂食機能制御学講座 咬合管理学
Gilles J Lavigne、Nelly Huynh:Faculte de medecine dentaire, Universite de Montreal, Canada
【目的】

痛みと質の低い睡眠との関係は臨床上問題になっており、急性疼痛は入眠を阻害し、慢性疼痛によってひきおこされた質の低い睡眠が翌日により悪化し た痛みをもたらすという悪循環に陥ることが知られている。本研究は脳波の徐波成分(Slow Wave Activity; SWA)と自律神経の活動指標として知られているHeart Rate Variability(HRV)を用いて線維筋痛症患者と慢性疼痛患者の睡眠状態を健常群と比較検討した。

【方法】

健常者群10名(平均年55歳)、線維筋痛症患者群10名(平均年齢52歳)、慢性疼痛患者群10名(平均年齢55歳)の協力のもと睡眠ポリソム ノグラフ測定を行った。これらの測定結果は睡眠周期を標準化したのちSWAとHRVを用いて各群の比較検討を行った。また健常者群24名(平均年齢47 歳)、線維筋痛症患者群24名(平均年44歳)を用いて性差についての検討を加えた。

【結果】

線維筋痛症患者群は健常者群と比較して第一睡眠周期において有意にSWAが減少していた。慢性疼痛患者は同様に第一睡眠周期においてSWAが減少 傾向にあったが有意差は認めなかった。一方、両患者群においてHRVは健常者群とは異なるリズムを示し、REM睡眠期における交感神経活動が減少している 傾向にあった。また線維筋痛症患者群では女性のほうにこれらの傾向が強く認められた。

【結論】

線維筋痛症患者群と慢性疼痛患者において睡眠の質の低下ならびに自律神経活動の平滑化が認められた。これらの変動は女性線維筋痛症患者で特に著明であり、線維筋痛症患者のマネジメントに有用な知見が得られた。

16)Sensitization of dura sensitive spinal trigeminal nucleus neurons in chronic morphine treated rats.
Akiko Ogawa、Yoshiki Imamura:Department of Oral diagnosis, School of Dentistry, Nihon University
Ian D. Meng:Department of Physiology, University of New England
Aim; Overuse of medication to treat migraine headache can produce chronic daily headaches, termed medication overuse headache (MOH). Although overuse of triptans, acetaminophen, and opioids can all produce MOH, the neuronal mechanisms underlying MOH remain unknown. We hypothesize that chronic intake of medication to treat migraine headache causes an upregulation of pronociceptive systems involved in headache pain.

Methods; Osmotic mini-pumps with saline or morphine were implanted in SD rats for 6-7 days. Dura sensitive (DS) neurons from the spinal nucleus caudalis (Vc) and upper cervical dorsal horn were sampled using extracellular single unit recording in anesthetized rats. The dural sensitivity, receptive field (RF) properties and neuronal activities of DS neurons were compared in chronic morphine and saline treated animals. Furthermore, inhibition of neurons by diffuse noxious inhibitory controls (DNIC) was produced by placing the tail in 55 °C and 46 °C hot water, and 0d °C cold water.

Results; Dural electrical and mechanical (von Frey) activation thresholds were lower in chronic morphine treated animals when compared to saline controls. The cutaneous receptive field sizes (both brush and pinch) were significantly larger in chronic morphine treated animals. The evoked activity by von Frey, brush, pinch and thermal stimulation to RF of lateral face were also greater in morphine treated animals. The DNIC stimulus produced significant inhibition of heat-evoked activity (both Ad and C fiber) in saline, but not chronic morphine treated animals.

Conclusion; These results demonstrate that chronic morphine administration may provide a clinically relevant model for studying the mechanisms of medication overuse headache.

17)歯科を訪れた患者で心身医学的治療が必要なため精神科に紹介した症例の報告
牧原保之:日本大学歯学部付属歯科病院口腔診断科、ペインクリニック科、東京女子医科大学東医療センター心の医療科
荒川幸雄、市川太、坪井栄達、原和彦、篠崎貴弘、小川明子、阿部郷、小池一喜1、後藤實、今村佳樹:日本大学歯学部付属歯科病院口腔診断科、ペインクリニック科
山田和男:東京女子医科大学東医療センター心の医療科
【目的】

近年、歯科を訪れる患者に心身医学的側面からの治療が必要なケースが多くみられる。歯科領域における主訴に対する心身医学的診査、診断や治療法が 徐々に確立されている一方、歯科ではその内容で制限がある場合も多い。そこで、当科ではこれらの患者を専門診療科へ紹介している。今回、当科から紹介を 行った9例について検討を行ったので、その報告を行う。

【方法】

対象は、平成17年12月より平成18年8月までに日本大学歯学部付属歯科病院口腔診断科:ペインクリニック科より東京女子医科大学東医療センター心の医療科に紹介した9名である。患者の年齢、性別、転帰、治療内容について調査し考察を加えた。

【結果】

紹介症例は、女性7名(平均年齢58.6歳)男性2名(平均年齢42歳)であった。内訳は疼痛性障害7例(そのうち2例は全般性不安障害、遅発性 ジスキネジアを併発)、鑑別不能型身体表現性障害2例であった。軽快は4例で、また、途中で来院しなくなった患者が2名であった。残りの3例は、不変で現 在治療中である。軽快した症例のうち、1例はアミトリプチリン単独で、2例はアミトリプチリンとオランザピン、1例はアミトリプチリンと塩酸ペロスピロン の併用で軽快した。軽快に要した期間は2ヶ月から6ヶ月であった。

【結論】

今後、歯科に来院する患者にも心身医学的アプローチが必要になるケースが増加すると予想される。歯科医師にも心身医学的治療法の知識が必要ではあ るが、対処できないと判断されれば専門科に紹介する必要がある。このような患者は、歯科的治療を行えば行う程、症状が悪化する恐れがある。専門科での治療 が必要であると判断したら、速やかに紹介する必要があり、連携して治療を行っていくことが必要であると思われる。今後も診査、診断をしっかりと行い、患者 が適切な治療を受けられる体制の確立を目指す。

18)口腔顔面領域の疼痛を有する「かみ合わせ外来」患者の病態検討
池田龍典、玉置勝司、和気裕之:神奈川歯科大学顎口腔機能修復科学講座歯科補綴学分野
宮地英雄、宮岡等:北里大学医学部精神科
和嶋浩:慶應義塾大学医学部歯科口腔外科学教室
【目的】

疼痛を訴えて来院する患者への対応は、痛みを侵害受容性疼痛、神経因性疼痛、心因性疼痛に分類して治療方針を立案することが提案されているが、十分ではない場合も少なくない。今回、疼痛を愁訴とする患者の病態について、特に精神障害との関連性を検討したので報告する。

【方法】

対象は神奈川歯科大学附属病院の「かみ合わせ外来」を受診し、歯科的基本検査と精神科医および心身医学を専門とする歯科医による医療面接を実施し た53例(疼痛を伴う愁訴を有する17症例)である。歯科および医科の診査をもとに疼痛の原因を身体的要因が認められた症例、神経的要因が認められた症 例、明確な身体的および神経的要因が認められなかった症例に分類し,さらに各症例について精神障害との関係を検討した。

【結果】

疼痛を有する症例17例中、身体的要因が認められた症例が4例(23.5%)、神経的要因が認められた症例が1例(5.9%)、明確な身体的およ び神経的要因が認められなかった症例が11例(64.7%)、未確定が1例(現在、脳神経外科で精査中)であった。また、17例は全例(100%)におい て精神障害の診断がついた。

【結論】

患者の訴える疼痛を侵害受容性、神経因性、心因性に大別することは一定の意義があるが、各病態が併存している可能性も十分考慮して個々の患者に合わせた妥当性のある治療にあたることが重要であると考えられる。

19)炎症性疼痛に対するラフチジンの効果
姜由紀、佐久間泰司、小谷順一郎:大阪歯科大学歯科大学歯科麻酔学講座
【目的】

ラフチジンはH2受容体拮抗作用に基づく胃酸分泌抑制作用と、胃粘膜防御機構に対する亢進作用を併せ持つ抗潰瘍薬である。カプサイシン受容体 (TRPV1)を介する血流増加作用にて胃粘膜保護作用を示す点が、これまでのH2受容体拮抗薬とは異なる。TRPV1はカプサイシン、熱、酸の3つの異 なる刺激を受容する受容体で、痛み受容の中心的役割を果たす分子であり、炎症性疼痛の疼痛機序においても重要な役割を果たしていることが報告されている。 そこで、ラフチジンがTRPV1に作用することに注目し、炎症性疼痛に対しどのように影響するかを検討した。

【方法】

実験には雄性Sprague-Dawleyラット84匹を用いた。炎症性疼痛モデルの作製は、ジエチルエーテル麻酔下に、左側後肢足底にCFAを 100?l皮下投与することにより行った。投与24時間後に行動学的評価を行い、炎症性疼痛発症状態にあると判断されたラットを実験に供した。発症を確認 したラットは7群(各n=6)に分け、薬剤投与なしをC群、生理食塩液のみ投与をS群、ラフチジン10 mg/kg投与をL10群、150 mg/kg投与をL150群とした。さらに、ラフチジンの効果が、TRPV1を介した作用であるかを確認するために、TRPV1拮抗薬であるカプサゼピン の前投与で評価し、ラフチジン10 mg/kg、150 mg/kg投与前にカプサゼピン0.6 mg投与したものをCL10群、CL150群とした。また、カプサゼピン0.6 mgのみ投与をCPZ群とした。行動学的評価は、機械刺激テスト、熱刺激テストを行い、手術前後、薬剤投与2、5、24、48時間後に測定した。

【結果】

10 mg/kgのラフチジン投与では、炎症によるheat-hyperalgesia、 mechano-allodyniaを増強したが、150 mg/kg投与ではhypoalgesiaがみられた。また、これらの効果はカプサゼピン前投与にて抑制された。

【結論】

考察)ラフチジンは低濃度ではTRPV1介して炎症性疼痛を増強させるが、高濃度では、神経ペプチドの枯渇あるいは神経毒性などにより疼痛伝導の遮断がおこりhypoalgesiaがみられると考えられた。

20)THE LEAVEL OF RECOGNITION OF THE PRIMARY HEADACHE IN DENTISTS
Mitsuru Doi, Shinji Tominaga, Kenzaburo Mise, Yuko Tsuru, Yozo Manabe, Shogo Taniguchi:
Section of Anesthesiology, Department of Diagnostics &General Care, Fukuoka Dental College
【Aim】

Headache is one of the chief complaints of the patients who consult a doctor in the hospital, and those patients consult various department physicians. However many physicians included dentists does not have interest in the primary headache. We think the possibility that the patient with the primary headache consults a dentist is high. We investigate the level of recognition of the primary headache in dentists.

【Method】

We did the questionnaire survey about the level of recognition of the primary headache and other orofacial pain to dentists at random.

【Results】

90.0% of dentists knew about migraine, tension-type headache was 48.6%, cluster headache was only 18.9%. However none of the dentists could diagnose the primary headache precisely. When the patient with orofacial pain that isn’t caused by teeth consults dental clinic, many dentist seem to diagnose as psychogenic pain disorder.

【Discussion and conclusion】

There were few dentists who understood about the primary headache in detail. Dentists should know about the primary headache in detail.

21)日本大学松戸歯学部付属病院に新設された顎脳機能センター「口・顔・頭の痛み外来」の診療状況について
小見山道、大久保昌和、成田紀之、西村均、内田貴之、若見昌信、下坂典立、小西哲仁、和気裕之、飯塚弘一、松崎粛統、前田剛、牧山康秀、平山晃康、川良美佐雄:
日本大学松戸歯学部付属病院 顎脳機能センター 口・顔・頭の痛み外来
【目的】

日本大学松戸歯学部付属病院は平成18年4月より口腔顔面頭頚部痛を包括的に扱う目的で、顎脳機能センター内に口・顔・頭の痛み外来を新設し、複数の診療科の医師、歯科医師による共同診療を開始した。今回この外来の診療状況について報告する。

【方法】

口・顔・頭の痛み外来は、顎関節・咬合科、口腔外科、麻酔科、脳神経外科、精神科の連携により維持され、当病院内他診療科、あるいは近隣歯科と医 科からの依頼に対応している。基本的に月曜日から土曜日まで初診患者に対し、歯科医師と脳神経外科医師それぞれ1名で対応し、継続的に診察が必要な場合そ のまま治療にあたっている。また、治療内容は顎関節症、舌痛症を含めた口腔顔面痛に対する診療に加え、必要な場合は麻酔科による神経ブロックや精神科との リエゾン診療等を行っている。

【結果】

当科の4月の初診患者数は110名であり、これらの患者を初期診断で分類すると、顎関節症61名、舌痛症20名、身体表現性障害10名、非定型歯 痛5名、緊張型頭痛4名、三叉神経痛2名、頭頚部の筋・筋膜痛(咀嚼筋を除く)2名、片頭痛2名、舌咽神経痛1名、上顎洞炎1名、智歯周囲炎1名、耳鳴1 名であった。

【結論】

口腔顔面頭頚部痛を包括的に扱う目的で開設された口・顔・頭の痛み外来は、現在のところ順調に診療が行われ、多くの非歯原性歯痛や口腔、顔面周辺の非歯原性の疼痛の管理に貢献していると考えられる。

22)九州歯科付属歯科麻酔・疼痛外来における診療の動向~第2報他診療科との連携について~
坂本英治、椎葉俊司、坂本和美、仲西修:九州歯科大学生体機能制御学講座歯科侵襲制御学分野
第1回懇談会でその診療動向を報告した。1999(平成11)年7月に改築移転した九州歯科大学病院付属歯科麻酔・疼痛外来も7年が経過し、その 現状を報告する。1999(平成11)年7月5日から2006(平成18)年6月30日までの歯科麻酔・疼痛外来を受診した口腔顔面痛領域の患者総数は 32000名を超え、年間に200-300人の新患が訪れる。この7年間の大きな変化はこれまでの口腔外科手術に続発する三叉神経麻痺、ニューロパシーの 治療の紹介に加え、原因が明らかではないとした、遷延する難治性歯痛患者の精査目的で保存科、近医歯科からの紹介、併診が増加している。これは難治性口腔 顔面痛についての意識が徐々に高まってきていることを意味する。またこれらの患者の中には悪性腫瘍、脳神経外科的疾患、整形外科的疾患、心身医学的疾患の 発券から専門医への受診を勧めることで改善の糸口になった症例も存在する。今回このような7年間の診療動向から今後の口腔顔面痛専門医の歯科における役割 を再考する。

23)疼痛管理に難渋した難治性外傷性三叉神経ニューロパシーの治療経験
萩原正剛、坂本英治、坂本和美、椎葉俊司、仲西修:九州歯科大学生体機能制御学講座歯科侵襲制御学分野
歯科口腔外科手術に続発する三叉神経ニューロパシー(TNP)に対してはしばしばその治療に難渋することがある。今回、様々な治療に抵抗性を示したTNP患者に対してカプサイシンクリームと経口ケタミン療法が奏功した症例について報告する。

【患者背景と原病歴】

患者は22歳女性。19歳時に転落事故のために左下顎骨骨体部および左顎関節突起部骨折のために総合病院整形外科を受診。プレートによる整復固定 術を施行された。その後創部感染のため、プレート再固定、腸骨移植術などを受けられていた。20歳時に開口障害のため紹介にて当院来院され、顎関節鏡下に よる剥離授動術を施行された。その後左おとがい部に神経様疼痛を自覚したため、当科紹介受診となった。これに対してはアミトリプチリン、ケタミン静脈投与 で症状は軽減していた。MRI検査にて整復固定用スクリューの下歯槽管および歯根部の貫通が疑われ、この除去を全身麻酔下で行われた。手術を契機に症状は 増悪化し、疼痛管理が困難になった。以降の外来での疼痛管理のために0.025%カプサイシン軟膏と効果的であるケタミンを経口用に調剤して使用した。

【結果】

それまで70/100の持続する疼痛に加え、1-3回/日のVAS80-90/100の痛みが痛みが生じていたが、カプサイシンクリームの塗布と 1?3回の経口ケタミンでVAS22/100で軽減し、日常生活には支障がない程度に疼痛管理が行えている。難治性の三叉神経ニューロパシーには様々な治 療にて取り組んでいく必要がある。