第一日目(6月12日)

11:00~12:00 The Japan Academy of Orofacial Pain理事会
12:00~13:00 口腔顔面痛懇談会世話人会
13:30~13:45

開会の辞

大会長挨拶:窪木拓男先生(岡大院)、佐々木啓一先生(東北大院)

13:45~15:45

シンポジウム1

「神経因性疼痛の基礎と臨床」
コーディネーター:今村佳樹先生(日大歯・口腔診断学)
今村佳樹先生(日大歯・口腔診断学)、岩田幸一先生(日大歯・生理学)、瀬尾憲司先生(新大院・歯科侵襲管理学)、小川節郎先生(日大医・麻酔学)
15:45~16:00

休憩

16:00~17:00

特別講演1

「顎関節・口腔領域のボツリヌス治療」
演者:梶龍兒先生(徳大院・神経情報医学)
座長:仲西修先生(九歯大・歯科侵襲制御学)
16:00~17:00

イブニングポスターセッション

18:30~19:00

懇親会

第二日目(6月13日)

9:00~9:00

特別講演2

「Development of Orofacial Pain in the United States」
演者:Glenn T. Clark(USC歯・Diagnostic Science)
座長:古谷野 潔先生(九大院・咀嚼機能再建学)
9:45~12:00

シンポジウム2

「歯科疾患と頭痛の関係を探る-日本にOrofacial Painの概念を根付かせるために-」(協賛:エーザイ株式会社)
コーディネーター:矢谷博文先生(阪大院・顎口腔咬合学)
和嶋浩一先生(慶大・歯科口腔外科)、矢谷博文先生(阪大院・顎口腔咬合学)、竹島多賀夫先生(鳥取大医・脳神経内科)
12:15~13:15

ランチョンセミナー

「線維筋痛症の病態と治療」(共催:日本臓器製薬株式会社)
演者:浦野房三先生(長野市・篠ノ井総合病院リウマチ膠原病センター)
座長:前川賢治先生(岡大院・顎口腔機能制御学)
13:15~13:45

口腔顔面痛懇談会 総会

13:45~14:15

The Japan Academy of Orofacial Pain 総会

14:15~16:15

ワークショップ

「突発性口腔感覚異常症と精神疾患」
コーディネーター:窪木拓男先生(岡大院・顎口腔機能制御学)
窪木拓男先生(岡大院・顎口腔機能制御学)、和気裕之先生(横浜市・みどり小児歯科)、山田和男先生(山梨大院・精神神経医学)
16:15~

閉会の辞

口腔顔面痛懇談会第6回研究会 抄録集

シンポジウム1「神経因性疼痛の基礎と臨床」

コーディネーター:今村佳樹先生(日大歯・口腔診断学)

1)イントロダクション「神経因性疼痛 研究ならびに治療の発展-」
今村佳樹:日本大学歯学部口腔診断学教室
神経因性疼痛が世に広く認識されるようになったのは、 John J Bonicaによるところが大きい。それまで詐病と扱われてきた神経因性疼痛を系統的に扱い、交感神経系の関与を明らかにした。しかし、本当の Bonicaの功績はワシントン州立大学に世界初のPain centerを設立し、専門の臨床医、研究者を育成して神経因性疼痛の概念を定着させたことにある。1980年代に始まった慢性痛研究の基礎研究の高まり は、神経因性疼痛の発症機序をターゲットにしてきたといっても過言ではない。一方、神経因性疼痛の治療も基礎研究に引っ張られる形で発展して来た。星状神 経節ブロックが中心であった治療法は基礎研究の進展に伴って薬物治療の重みが増し、現在に至っている。しかし、基礎研究で得られた新しい知識がことごとく 臨床に生かされているかというと、そうでもない。あるものは臨床応用ができなかったり、あるものは基礎研究で有用であるとされた効果が臨床で確認されな かったりで、期待に沿わないものもある。このシンポジウムでは、この20年の神経因性疼痛研究がもたらした数々の恩恵を振り返るとともに、基礎研究と臨床 応用の間に横たわる問題について検討してみたいと思う。シンポジストには、神経因性疼痛の基礎研究、医科、歯科臨床の第一人者をお迎えした。岩田先生には 神経因性疼痛のメカニズムを概説していただき、治療の対象とされてきたメカニズムのスポットをお示しいただく。瀬尾先生には、その前臨床的基礎研究が明ら かにした効果と臨床のギャップについてお話いただく予定である。また小川先生には、薬物治療の総括とも言えるドラッグチャレンジテストの詳細とその結果か ら考えられることについて御講演いただくようにお願いした。各シンポジストの御講演の後、現在の神経因性疼痛の研究・臨床が持つ問題点について検討してみ たいと思う。
2)「神経因性疼痛の基礎学問的な側面」
岩田幸一:日本大学歯学部生理学教室
末梢神経が損傷されると損傷神経の支配領域、あるいは支配領域を超えた広い部位に異常疼痛が発症することがある。このような神経損傷が原 因となる異常疼痛は神経因性疼痛と呼ばれ、臨床的に非常に治療が困難な場合が多い。これは、損傷神経における様々な受容体の発現や異常な神経活動の増強が 一次求心神経だけでなく中枢神経系においても誘導され、病因を特定することが困難なためであると考えられる。そこで、本講演では神経が傷害された時に変化 する様々な受容体と、その受容体がどのようなメカニズムで神経活動の増強を惹き起こすかという点に焦点を当てて述べることにする。最近、我々は下歯槽神経切断モデルあるいは三叉神結紮モデルを用いて、三叉神経系に発症する神経因性疼痛の神経機構に関する研究を進めている。下歯 槽神経が切断されると、切断された神経は異常興奮を引き起こす。この異常興奮はナトリウムチャンネルの異常発現に起因すると考えられている。さらに、この 異常興奮が長期間持続すると三叉神経節細胞は様々な受容体を発現するようになる。特に、NGFやBDNFなどの神経成長因子は損傷神経から遊離し損傷を受 けていない神経線維に作用し、神経の異常興奮を誘導すると考えられている。損傷を受けていない神経に誘導された異常興奮は中枢神経系の異常興奮を引き起こ し、中枢神経系の感作(センシタイゼイション)の原因となる。脊髄や延髄後角に分布するニューロンはNMDA受容体などの受容体タンパク合成を促進し、伝 達物質に対する感受性はさらに高まる。

このように末梢神経系に生じた異常興奮は様々な受容体を介して中枢神経系の異常興奮を誘導するように作用し、その結果として異常疼痛が発症すると考 えられる。これまでに多くの基礎研究がなされ、神経損傷に伴う異常痛の発症メカニズムが解明されつつあるが、神経因性疼痛の病態の複雑性のために、未だ、 その全貌を解明するに至っていない。今後は、これまでに得られた研究結果をベースに臨床応用をも視野に入れた基礎研究がなされる必要があると思う。

3)「基礎学問の臨床への応用と、臨床の基礎学問への発展」
瀬尾憲司:新潟大学大学院医歯学総合研究科口腔生命科学専攻顎顔面再建学講座歯科侵襲管理学分野
脊髄を中心としたニューロパシックペインの研究は多い。顔面の治療を扱う人間にとっても、これらの結果は非常に多くの情報を与えてくれることは確かである。脊髄系での疼痛研究モデルとして急性侵害刺激としてhot-plate test、 paw flick test、 tail flick testなどが、炎症性疼痛モデルとしてフォルマリンテスト、カラギナンテストなど、さらに神経損傷モデルとしてはBennett model、 Chung model、 Seltzer modelなどが知られている。これらのモデルにはさらに脊髄クモ膜腔内にチューブを留置して各種薬物を脊髄に投与し、侵害反射に対する反応、さらに引き 続いて生ずる中枢神経の興奮による反応に対して薬理学的効果が検討されてきた。一方、三叉神経系へ応用すべく、多くの研究者たちがこれらの研究モデルを顔 面領域に改良して多くの知見を発表してきた。私たちはマスタードオイルの顎関節内注射による疼痛反応により、顔面領域の痛み反応のメカニズムを検討してき た。In vitroでは、脊髄領域では後根神経つき脊髄スライス標本の作成により、多くの優れた電気生理学的な研究がなされている。一方延髄領域ではいまだ脊髄と 同じようなスライス標本の作成成功に至っていない。私たちは膜電位画像解析法を用いて三叉神経尾側亜核での興奮伝播を解析しているが、侵害刺激の中枢内興 奮伝播は年齢による違いなどがあり脊髄領域とは異なる様相を示すことが示唆されている。

動物実験をはじめ、海外ではヒトを対象として多くの薬物の効果が調べられ、また実際にそれらが臨床応用されている。これらの多くは脊髄系の各種疾病に対しての結果である。私たちがこれらの結果を三叉神経系における臨床に応用するためには

  • ヒトにおける三叉神経系と脊髄系の解剖学的相同性、類似性の確認
  • 動物での疾病モデルを利用した三叉神経系の病態の正確な解析
  • 病態の生理学的、病理学的な正確な分析
  • 人種間の違い
  • 症状認識に対する文化的背景

なども考慮しなければならない。

私たちが現在抱えている病態を今後は動物実験に置き換えて、研究することは今後さらに重要になっている。しかし、基礎の研究者と臨床家との興味の対象は離れる傾向にあり、今後の治療法の開発の障害のひとつとなっていることに注意しなければならない。

4)「神経因性疼痛に対する治療法の選択―ドラッグ・チャレンジ・テスト-」
小川節郎:日本大学医学部麻酔科学教室
神経因性疼痛はペインクリニック領域でも最も治療に難渋する慢性疼痛性疾患である。その理由のひとつに発生機序・病態が一様ではないこと があげられる。そこでこの疼痛の治療には病態にあわせた鎮痛手段・鎮痛薬を選択することが必要となってくる。今回は、その方法のひとつとして用いられる薬 理学的疼痛機序判別試験(drug-challenge test : DCT)について述べたい。神経因性疼痛の発生と維持の機序には、(1)末梢における神経線維間の電気的・化学的cross-talk、(2)異所性神経発火、(3)疼痛伝達 神経線維自体の興奮性の亢進、(4)大口径有髄神経線維の脱落(門調節機構の破綻)、(5)交感神経節後神経の後根神経節への発芽(basket formation)、(6)脊髄後角におけるAβ神経線維の後角第I、II層への進入、(7)NMDA受容体を介した中枢神経系の過敏、(8)下行性疼 痛抑制系の機能低下、(9)中枢神経内の神経可塑性変化、などがあげられている。

そこで、一人の患者を診る場合、まず、その患者の疼痛機序を出来るだけ判別することが必要になってくる。このための試験が薬理学的疼痛機序判別試験 である。この方法は、鎮痛に関与する数種類の薬物を少量ずつ静脈内注入し、疼痛の程度の推移を問診する。痛みに交感神経が関与しているかどうかはαアドレ ナリン遮断薬のフェントラミンで、異所性発火の有無はリドカインで、NMDA受容体の関与の有無はケタミンで、侵害受容性疼痛の有無はモルヒネで検査す る。それぞれの薬物に反応した症例ではそのご検査の結果に見合った治療を行う。すなわちフェントラミンで鎮痛された場合はその後、交感神経ブロックを適応 する。リドカイン陽性例ではリドカイン持続点滴療法やメシキレチンの内服を行う、などである。そのほか、この試験の結果に則って行った治療法のケタミン持 続点滴法、脊髄電気刺激法、オピオイドの使用、などにつき報告したい。また、神経因性疼痛と炎症の関係、交感神経―知覚神経couplingの発生と神経 組織の虚血の問題などにも触れ、治療法の多面性にも言及する予定である。

臨床における治療の困難さをご理解いただければ幸いであります。

シンポジウム2「歯科疾患と頭痛の関係を探る-日本にOrofacial Painの概念を根付かせるために-」

コーディネーター:矢谷博文先生(阪大院・顎口腔咬合学)

1)日本に如何にOrofacial Painを根付かせるか『歯痛と頭痛の相互関係』
和嶋浩一:慶應義塾大学医学部歯科口腔外科学教室
本邦に如何にしてOrofacial Painを根付かせるかという命題に対する最も有効な方略は一般歯科診療において最も一般的な症状であり、最も簡単に治療できると思われている歯痛がかな らずしも正しく診断・治療されているわけではないことを明らかにし、その改善には非歯原性歯痛に代表される幅広い痛みに関する知識が必要であることを歯科 界に広めることであると考えている。そして、歯痛を幅広く理解するために必要な基礎知識と診査診断手順こそがOrofacial Painであると考える。歯科において毎日治療している歯痛、その90%以上は歯髄と歯周組織の炎症に起因するもので通常の処置により解決する。しかし、少ないながら数%の 歯痛は通常の歯科処置に反応せず、頑固に持続することとなる。そのような歯痛がいかなる原因による痛みであるか、その診査が非歯原性歯痛の診査である。非 歯原性歯痛の中で最も多い原因は筋・筋膜疼痛である。筋・筋膜疼痛性歯痛は側頭筋、咬筋のトリガーポイントを疼痛発生源とする関連痛として歯痛が感じられ る状態である。同様のメカニズムによって、頭頚部の筋に生じたトリガーポイントの関連痛として頭痛が生ずる。これが頭蓋周囲に圧痛を有する緊張型頭痛であ る。このような関連痛の原因として考えられることは三叉神経I、II、III枝、および頚神経が三叉神経脊髄路核で収束し、三叉神経の痛みの核である尾側 亜核を過敏化させることである。筋・筋膜疼痛性歯痛と緊張型頭痛は全く異なる症状であるが、原因筋が異なってももとになるメカニズムは同じである。

このように、歯科臨床で最も一般的な歯痛と頭頚部で最も一般的な頭痛、特に緊張型頭痛は密接な関係を持っていることが判ってきている。歯痛を専門的 に扱う歯科医師として非歯原性歯痛の知識は必須であり、頭痛に関する基礎知識も歯痛に関連する知識として是非とも理解していただきたい知識である。

「歯痛に悩む患者さんの診査、治療にはOrofacial Painの理解が必要、Orofacial Painを理解している歯科医師は歯痛の治療がうまい」、これがOrofacial Pain普及のキャッチフレーズである。

2)「TMDと頭痛の関係を探る」
矢谷博文:大阪大学大学院顎口腔機能再建学講座顎口腔咬合学分野
頭痛は最もありふれた顔面痛であり、日本人では約1~3割の人が頭痛に悩んでいるとされている。頭痛にはきわめて多くの種類があるが、機 能性頭痛と症候性頭痛に大別される。このうち発症頻度の高いのは機能性頭痛であり、機能性頭痛にも緊張型頭痛、片頭痛、群発頭痛など多くのものがある。 TMDに頭痛、特に緊張型頭痛、がしばしば随伴していることは古くから知られており、当科のTMDの初診患者においてもその約3割に頭痛が認められる。し たがって、TMDをはじめとする口腔顔面痛を扱う歯科領域の医療従事者にとって頭痛に対する知識は必須のものといえるが、彼らの頭痛に関する知識は必ずし も高いとはいえないまた、慢性的な口腔顔面痛を呈する疾患、すなわち慢性疲労症候群、線維性筋痛症、TMD、緊張型頭痛、外傷後症候群などはその臨床症状に共通点が多 く、その病因、病態にも不明な点が多いことから、疾患間の境界はクリアではなく確定診断は容易ではない。治療に関しても、たとえばTMDと頭痛を併発して いる患者において、両者が別の原因でたまたま同時に発症しているのか、共通の原因で発症しているのかを知ることも容易ではなく、それゆえ効率的な原因除去 により患者を完治に導くのは困難である。

そこで、本シンポジウムでは、現在TMDと頭痛の関係について何が明らかにされているのかについて文献的レビューを行うとともに、当科でのデータを分析して両者の関係を考察したいと考えている。

3)「一次性頭痛:分類・診断と最近のトピックス」
竹島多賀夫:鳥取大学医学部脳神経内科
片頭痛は症状ではなく疾病である。頭痛の科学的研究が進み、この認識が広く受け入れられるようになってきている。1988年に国際頭痛学 会が頭痛の分類と診断基準を提唱した。これにより診断が標準化され各国、各施設の研究成果が比較検討できるようになり、研究が進展し、2004年には国際 頭痛学会分類第2版(ICHD-II)が出された。1)一次性頭痛、2)二次性頭痛、3)頭頚部神経痛、中枢性・一次性顔面痛およびその他の頭痛の3つの パートからなり、14種類の頭痛グループが含まれている。一次性頭痛には#1片頭痛、#2緊張型頭痛、#3群発頭痛およびその他の三叉神経・自律神経性頭 痛(TAC)、#4その他の一次性頭痛、が含まれる。ICHD-II は最近の研究成果を反映して、いくつかの変更や追加がなされている(日本語版のURL;http: //www.jhsnet.org/index11.htm)。本シンポジウムでは片頭痛を中心に一次性頭痛の主要なサブタイプと診断基準のポイントにつ いて述べたい。最新の片頭痛仮説・三叉神経血管説によれば硬膜の血管に分布する三叉神経が感作され神経原性炎症がおこり、炎症による三叉神経の興奮が逆行性に伝導 して炎症が拡大してゆくことが中心的な病態と考えられている。片頭痛の特効薬として開発されたトリプタンはセロトニン(5HT)作動薬であるが、三叉神経 終末に存在する5HT-1D受容体を刺激して三叉神経の異常興奮を鎮め、血管壁の5HT-1B受容体に作用して異常拡張した血管を収縮させることにより片 頭痛を頓挫させると考えられている。

特殊な片頭痛として、家族性片麻痺性片頭痛があり、 Caチャンネル遺伝子や、ATPase遺伝子の異常が明らかになってきた。これらの異常により、神経細胞の興奮性が変化するため片頭痛を発症しやすくなる ものと考えられている。また、片頭痛発作の極期には末梢三叉神経及び中枢神経の感作がおこることが明らかにされ、アロディニアとして顔面や上肢のしびれ感 が注目されている。三叉神経の過剰興奮、すなわち末梢性感作と三叉神経核や視床の中枢感作などの現象が、顎関節痛や歯痛とも相互に関連しているものと考え られる。

特別講演1

座長:仲西修先生(九歯大・歯科侵襲制御学)

「顎関節口腔領域のボツリヌス治療」
梶龍兒:徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部神経情報医学分野
顎関節口腔領域の不随意運動にはジストニア(Meige症候群、舌ジストニア、顎関節ジストニア)、歯ぎしり(bruxism)、片側顔 面痙攣、口部ジスキネジア、顔面シンキネジー、顔面チック、口蓋振戦、顔面ミオクローヌス、顔面ミオキミアなどがある。特に顎関節ジストニアのjaw- closing typeは顎関節症との鑑別が重要であり、しばしば誤診されている。具体的には感覚トリック、morning benefit、筋電図などを用いて鑑別する。診断に苦慮する場合は大量リドカイン(0.5%)筋注(Muscle Afferent Block)を行い症状の改善をみる場合もある。ボツリヌス毒素製剤は神経筋接合部のアセチルコリン放出に関わるSNARE複合体を分解するエンドペプチ ダーゼ活性を有し不随意運動を抑えることができる。従来の神経ブロックなどとは異なり特に不随意運動の強い筋群にのみ比較的選択的に作用するため顔面痙攣 などでは完全な筋の麻痺をきたさずに痙攣のみをとめることが可能である。この筋活動選択性薬理作用はボツリヌス毒素の受容体(アクセプター)の特異性によ り説明できる。すなわちB型毒素の場合アクセプターはガングリオシドとシナプトタグミンIIを共認識し、神経終末に取り込まれるがこのうちシナプトタグミ ン IIはシナプス小胞の内表面にのみ存在するため毒素はアセチルコリン放出の活発な神経終末に選択的に作用する。口腔顎関節領域の痛みに対しても近年ボツリ ヌス毒素の皮下注射、粘膜下注射が奏効することが知られている。例えば三叉神経痛や群発頭痛、舌咽神経痛などの長期間に渡る除痛効果が期待されている。本 講演ではこの新しい痛みに対するボツリヌス毒素の効果についても概説する。

特別講演2

座長:古谷野潔先生(九大院・咀嚼機能再建学)

「Past、 Present & Future of Orofacial Pain in the United States」
Glenn T. Clark DDS、 MS.  University of Southern California Center for Orofacial Pain and Oral Medicine
Like many of my contemporaries (at least those over the age of 50)、 the journey to the discipline of orofacial pain began with studies in another field. In my specific case I began being interested in the area of occlusion and temporomandibular disorders. Unfortunately、 the problem was that in the early 1970’s were few experts who were knowledgeable in this arena. At that time、 TMJ syndrome、 as it was called back in the early 70’s、 was linked to the field of Gnathology and Occlusion、 which is where I began my research efforts. I soon switched my research interest into the field of TMD、 examining the effects of an occlusal splint on bruxism and myofascial pain. At this time I also began some studies on jaw muscle physiology as well as more studies on bruxism and on the methods of diagnosis and treatment of TMD. In the late 1980’s the use of arthrograms and eventually MR imaging allowed the first studies and understanding of TMJ disk displacement. As you might expect my research shifted in this direction. Next、 my interest in motor disease (bruxism) and in particular painful jaw muscle pain problems、 pushed me to examine the fatigue、 endurance and chronic pain processes that effect the jaw motor system. In parallel to this work and largely because I was interested in sleep bruxism and familiar with mandibular repositioning、 I took up a second line of study looking into the newly developing field of obstructive sleep apnea and dental devices. I did not let my interest in bruxism fade away however and this led me to take a sabbatical at the UCLA neurology department where I was fortunate enough to be able to collaborate with individuals who were among the first to examine the efficacy of botulinum toxin for oral motor disorders. Of course my interests continue to develop and shift over time.Again、 like my contemporaries、 my movement into the world of Orofacial Pain and my changing interest and research efforts are driven by the hot science trends as well as the fact that in the United States、 22% of the population have some form of orofacial pain. Excluding ulcers and toothache from the 22% figure this leaves a total of 7.4% of the population with chronic orofacial pain. These number increase substantially to well over 12% if you look only at the elderly population (those over 65). It is also clear that Pain and pain mechanism is a hot science field. Given this trend and the need for services by the public suffering from pain、 it is clear that we need many practitioners who are trained in the discipline of Orofacial Pain. Finally、 my presentations will examine the trends in publications in the fields of bruxism、 pain and temporomandibular disorders、 obstructive sleep apnea、 oral motor disorders. In addition I will review the recent research recommendations of the NIDCR (National Institute of Dental and Craniofacial Research. I will end with a brief presentation of the new training and research efforts that I and my colleagues are making at the USC School of Dentistry to prepare us for the future.

ランチョンセミナー

座長:前川賢治先生(岡大院・顎口腔機能制御学)

「線維筋痛症の病態と治療」
浦野房三:長野市・篠ノ井総合病院リウマチ膠原病センター
線維筋痛症とは身体の広範囲に強い疼痛を生じ、特異的な18ヶ所の圧痛点を有する原因不明の疾患である。通常の血液尿検査あるいは画像検 査でもほとんど異常がみられない。欧米ではありふれた病気として広く認識されているが、現在、わが国では認知度が低く、診断と治療が充分になされていな い。2002年に NPOの線維筋痛症友の会が設立され、2003年には日本リウマチ財団および厚生労働省の研究調査会が設置された。病因はHPA-axisの不調とも言われ、最近はセロトニン代謝の異常に言及した報告もある。また、外傷、手術、ストレス、不安、全身病、睡眠障害 など多岐にわたるトリガーが報告されている。有病率は米国では2%と報告されている。現在、わが国では研究調査会で疫学調査がおこなわれている。

症状は筋骨格症状と筋骨格外症状の二群に分けられる。筋骨格症状は項背腰部と四肢の疼痛、よび、関節痛、四肢のこわばり感などリウマチ症状を主体と したものであり、筋骨格外症状は頭痛、不眠、疲労感、頻尿、眼球と口腔の乾燥症状、下痢、月経困難、生理不順、悪夢、焦燥感、不安感、憂鬱感、全身のこわ ばり感、冷感など臨床各科の症状がある。広範囲の疼痛があるため患者は関節リウマチを心配して受診することが多い。しかし、レントゲン所見あるいは各種検 査所見には異常がみられないため、的確な診断と充分な治療がなされない。

診断はアメリカリウマチ学会の分類基準を基に診断される。分類基準は広範囲の疼痛の定義と特徴的な18ヶ所の圧痛点からなる。この圧痛点のうち11ヶ所に疼痛を感じた場合、線維筋痛症と診断される。

治療は薬物療法、リハビリテーション、および心理療法がある。薬物療法では抗炎症剤の他に三環系抗うつ剤、SSRI、あるいは、SNRIなどが使わ れる。欧米では認知行動療法など心理療法も行われている。治療に際しては職場あるいは家庭内の人間関係への配慮、そして、医療関係者の受容的態度が重要で ある。

ワークショップ

コーディネーター:窪木拓男

1)「特発性咬合感覚異常症の疾患概念確立に向けたシステマティックレビュー」
窪木拓男:岡山大学大学院医歯学総合研究科 顎口腔機能制御学分野
古くから「咬合感覚異常occlusal dysesthesia」を呈する患者が、顎関節症患者に含まれていることは知られている。多くは特発的に、歯の接触や咬合位の違和感、不安定感、歯列の 歪み感等を生じ、機能的にも精神的にも患者の苦痛は甚大である。これらの患者に対し、歯科では補綴医や顎関節症専門医が咬合の専門家として対応する場合が 多いが、本症に対する明確な疾患概念が形成されておらず、長期におよぶ不可逆的な咬合治療やアプライアンス療法にもかかわらず、症状が軽減しないことに苦 渋することが多い。なによりも、患者にとっては、本疾患が社会的に認知されておらず、精神的な問題と一蹴されることが大きな苦痛である。一方、近年では、本疾患が「身体表現性障害」「気分障害」「妄想性障害」などと細分類され始めており、疾患概念の再構築に少しずつ道が開けた感が ある。さらに、最近では、本疾患の発症メカニズムとして、歯根膜等の自己感覚受容器からの情報が、末梢ならびに中枢において乱れた(もしくは過敏化が生じ た)結果、このような一連の症状が発現する可能性があるとの研究成果も報告されるようになり、本症を歯科疾患として認知しようとする動きが急速に広がって いる。もちろん、本疾患概念を構築する際には、これらの症状を呈する患者にファントムバイト症候群、オーラルディストーニア、統合失調症、身体表現性障 害、人格障害、気分障害、不安障害、PTSD、などと診断されうる患者群が少なからず含まれることに注意し、適切な鑑別診断のガイドライン確立を並行して 進めるべきであろう。

したがって、本講演では、「咬合感覚異常症(仮称)」という疾患概念を確立するためにこれまでの知見をまとめ、類縁疾患等との鑑別スキームをまとめてみたい。

2)「口腔領域の感覚異常を訴える患者の心身医学的な検討」
和気裕之:みどり小児歯科
演者は、東京医科歯科大学と神奈川歯科大学で精神科医とのリエゾン診療を実施しているが、いずれの外来にも口腔顔面領域の感覚の異常を訴 える患者が受診している。部位は、歯、歯肉、舌、頬粘膜等の他、顎顔面部や頚肩部等に及ぶ場合もある。また、自覚症状は主に違和感であるが、具体的には、 歯が浮く、歯肉がムズムズする、舌や頬粘膜がヌルヌル、ネバネバ、ザラザラする、熱感等がある。また味覚がおかしい、口臭が強くなった、かみ合わせが安定 しない。顎顔面・頚肩部では重苦しい、圧迫感、痺れ感等多彩である。これらの症状の中では、咬合に関するものが問題になることが多く、歯の接触や顎位等 種々の検査を行っても明らかな異常が発見出来ないケースや、また異常が発見されても自覚症状を十分に説明出来ないケース等がある。診断は、まず自覚症状を惹起する可能性のある歯科および医科の一般身体疾患を検索する。歯科疾患の以外には神経内科や整形外科疾患等が発見される 場合がある。次に、十分な診査によっても明確な身体疾患が見つからない場合は、精神疾患や環境要因との関係を検討する。身体面、精神面の検察は同時に行う ことが理想であるが、臨床では精神面の検討が困難なこともある。心身医学的には、明確な他覚所見が認められないケースと、認められるケースに大別し、後者 をさらに他覚所見と自覚症状の関連性が高いケースと低いケースに分類して検討している。

リエゾン外来で診療した口腔領域の感覚異常を訴える症例は、身体表現性障害(特に心気症や鑑別不能型)や気分障害に含まれる疾患が多く、頻度は少ないが妄想性障害と診断される症例もある。上記の特殊診療をもとに述べる。

3)「咬合感覚異常と妄想:妄想性障害(身体型)を中心に」
山田和男:山梨大学大学院医学工学総合研究部(精神神経医学)
“妄想”とは、「他人には信じることができない誤った確信」であり、なおかつ、「それに反する明らかな証拠があるにもかかわらず修正しないでいるもの」をさす。妄想を呈する疾患の代表格は統合失調症であるが、リエゾン歯科(またはpsycho-dentistry)の領域で比較的よくみられるものとして、 「自分に何か身体的欠陥がある」あるいは「自分が一般身体疾患にかかっている」といった妄想を主症状とする、妄想性障害(身体型)が挙げられる。

“妄想性障害”は、奇異でない内容の妄想が、1ヶ月以上にわたり続く疾患である。統合失調症とは異なり、幻聴などの幻覚や陰性症状(感情の平板化、 思考の貧困、意欲の欠如)などは伴わず、著しい機能低下も認めない。妄想の内容や行動も、統合失調症のそれと比較して、さほど風変わり/奇異ではない。若 年発症の統合失調症とは異なり、中年期以降の発病が多いとされている。

妄想性障害は、色情型、誇大型、嫉妬型、被害型、身体型、混合型、特定不能型に下位分類されるが、身体型では、精神科以外の一般科(歯科・口腔外科を含む)を真っ先に受診すると考えられる。

妄想性障害(身体型)の中には、かつて“セネストパチー”や“皮膚寄生虫妄想”と呼ばれていたものも含まれる。歯科・口腔外科領域における妄想の内 容は多岐にわたるが、咬合感覚異常を重篤な一般身体疾患と信じているものが多い。また、咬合感覚異常そのものが妄想であることもある。心気症(とくに、病 識の乏しいもの)との鑑別が困難となることもあるが、心気症患者の恐怖や心配は、妄想的な強さでは保持されていない。

妄想性障害(身体型)の治療には抗精神病薬を用いるが、病識が欠如していることが多いので、コンプライアンスは悪く、治療にのらないという点で、予 後不良とされている。しかし、身体型に関しては、他の型の妄想性障害と比較して、かなり予後は良いのではないかという印象を持っている。

一般演題

演題1)「歯髄のCapsaicin刺激により延髄後角に発現するpERKの動態」
長谷川誠実、夏見淑子、本田公亮:兵庫医科大学歯科口腔外科学講座
【緒言】

歯痛由来の慢性痛の原因のひとつとして、われわれは、歯痛がfear memoryとなり得るという仮説を立て、歯痛と情動の関係について検討することにした。そこで、情動の中枢である海馬に着目し、情動の抑制状態としてア ルコール投与時における歯痛と海馬の活動の関係を調べることにより、fear memoryとしての歯痛を考察した。[材料と方法]実験にはウイスター系ラットを用い、ウレタンの腹腔内全身麻酔を施した後、右側頚動脈にカテーテルを 挿入し血圧計に接続、歯牙に銀線電極を固定し電気刺激装置に接続、さらに脳定位固定装置に固定の上、左側海馬内にレーザー血流計のプローブを挿入し、血流 計に接続した。そして、エタノールを腹腔内投与後10分、20分、30分および60分の歯髄刺激時の全身血圧および海馬血流を測定した。[結果および考 察]歯髄痛に対して全身血圧は必ず上昇し、血圧は痛みの指標、海馬血流は一定の条件下でのみ増加し、海馬血流は痛みの種類の指標であることが示された。そ してエタノールを投与した場合の歯髄刺激と全身血圧の関係は、投与前との間に差異を認めないが、海馬血流では歯髄刺激に対する反応が低下した。すなわち、 エタノール投与により痛みを痛みとして認知する機構と痛みを情動反応として認知する機構が乖離する現象が生じたと考えられる。この現象は、歯痛由来の慢性 痛を解き明かすヒントになるであろう。

演題2)「Fear memoryとしての歯痛 -歯痛と海馬活動の関係-」
清水康平:日本大学歯学部保存学教室歯内療法学講座
北川純一:日本大学歯学部生理学教室、日本大学歯学部総合歯学研究所機能形態部門
浅野正岳:日本大学歯学部病理学教室、日本大学歯学部総合歯学研究所生体防御部門
小木曽文内:日本大学歯学部保存学教室歯内療法学講座、日本大学歯学部総合歯学研究所高度先端医療研究部門
岩田幸一:日本大学歯学部生理学教室、日本大学歯学部総合歯学研究所機能形態部門
【目的】

歯髄感覚情報の中枢処理機構の一端を解明する目的で、上顎右側第一臼歯歯髄のcapsaicin刺激を行い、咀嚼筋活動およびMAPキナーゼの一 つであるリン酸化ERK(pERK)の延髄後角における発現様式を免疫組織学的に検索した。【結果と考察】pentobarbital  Na(50mg/kg、 ip)で麻酔したSD系ラットの第一臼歯歯髄をcapsaicin刺激することにより、同側顎二腹筋、咬筋活動が有意に増加した。pERK-LI Cellはrostral Vc zoneおよびPa5では、両側性に発現し、刺激後5分でpeakに達した。一方、Vc/C2 zoneでは、刺激後5分で同側有意に多数のpERK-LI Cell発現が認められた。また、吻尾側における分布は、刺激側においてVc/C2 zoneおよびrostral Vc zoneの2つの領域にpeakを有する二相性分布を示した。以上の結果から、Vc/C2 zoneは歯髄炎により発症する痛覚過敏に直接関与するのに対し、rostral Vc zoneおよびPa5は歯髄の痛覚だけでなく、他の機能調節にも関与する可能性が示された。

演題3)「実験的顎関節症モデルラットの三叉神経脊髄路核におけるpERK発現」
原田聡之:日本大学歯学部歯科補綴学教室総義歯補綴学講座
清水康平:日本大学歯学部歯科保存学教室歯内療法学講座
北川純一:日本大学歯学部生理学教室
祇園白信人:日本大学歯学部歯科補綴学教室総義歯補綴学講座
岩田幸一:日本大学歯学部生理学教室
【目的】

顎関節の急性炎症は炎症の消退後も顎関節領域において長期にわたる慢性的な痛みを生じると報告されている。しかし、炎症消退後に続く慢性的な顎関 節の痛みの基礎的なメカニズムは不明である。そこで、この異常慢性疼痛の中枢のメカニズムを明らかにするため、三叉神経脊髄路核におけるpERK発現を実 験的顎関節症モデルラットを用いて調べた。【方法】ペントバルビタールにより麻酔したラットの左側顎関節に起炎物質であるCFAを注入し、注入2週間後に 受動的顎運動を行った。顎運動距離は4㎜、顎運動時間は5分および15分とし、1Hzにて受動的顎運動を行った。受動的顎運動終了後、直ちに灌流固定し、 脳の摘出後30μmの連続切片を作成し、pERK染色を行った。

【結果および考察】

pERK‐LI cellは、三叉神経脊髄路核のrostral VcとVc/C2 zoneの2つの領域を中心に発現した。pERK‐LI cellは5分刺激よりも15分刺激において有意に多く発現を認めた。以上の結果より、顎関節の急性炎症が消退した後に引き起こされる慢性痛は、三叉神経 脊髄路核に分布する侵害受容ニューロンの活動性がMAPkinaseを介して上昇することが原因となる可能性が示された。

演題4)「ラット口唇へのホルマリン注射が誘導する疼痛関連行動及びc-Fos発現の性差」
杉生真一、鵜鷹佐知子、川端 恵、酒井勇介、下田隆史、森谷正之、吉田篤、竹村元秀:大阪大学大学院歯学研究科・高次脳口腔機能学講座
ヒトでは女性の顔面、咀嚼筋および顎関節の痛みは男性に比べ多く報告されている。ホルマリンテストを用い疼痛関連行動(PRB)及びc-Fos発 現に性差があるかどうかを調べた。オスラットの左上口唇の皮下に50 μlの1.5%ホルマリン生理食塩水希釈溶液を注射し、5分間毎の顔面毛づくろい(こすり)行動の回数を90分にわたり観察した。注射2時間後灌流固定 し、通法に従いc-Fosの免疫組織化学法にて陽性細胞を観察した。ホルマリン注射後、0?5分間(急性期)はオスでは平均121±31、メスでは241 ±62のPRBを観察した。その後の5?10分間はオスでは60±20、メスでは93±39に減少し(鎮静期)、その後10?90分間はまた多くのPRB を増やしては減少する(遅延期)、全体としては2相性のPRBを示した。遅延期ではメスが初期(10?45分間)に多く(186±45)、後期(45? 90分間)に減少する(43±10)PRBを示したが、オスでは初期では漸次増加し(146±26)、後期の減少が少なかった(140±34)。c- Fos陽性細胞の一切片あたりの平均個数は中位亜核/尾側亜核(Vc)境界部、尾側のVcの浅層部並びに大細胞部では常にメスの方が多かったが有意には至 らなった。顔面の疼痛関連行動に、性差を認め、メスの方が疼痛の感受性が強く、内因性の制御も強く働くと考えられる。

演題5)「LPA(リゾフォスファチジン酸)の小脳延髄槽への投与がフォンフライテストと侵害    刺激誘導 c-Fos発現に及ぼす効果」
酒井勇介、下田隆史:大阪大学大学院歯学研究科・高次脳口腔機能学講座、大阪大学大学院歯学研究科・顎口腔機能再建学講座
杉生真一、森谷正之、吉田篤:大阪大学大学院歯学研究科・高次脳口腔機能学講座
石垣尚一:大阪大学大学院歯学研究科・顎口腔機能再建学講座
LPA は神経損傷後に放出され、脱髄を起こし、神経因性疼痛発現に関与することが知られている。LPAを中枢性に作用させた場合の疼痛発現様式を調べた。麻酔下 にて雄性成ラットの小脳延髄槽にLPAを投与し(1 nM-10 μM、10 μl)、その後1、3および7日目にフォンフライテストにて機械刺激疼痛閾値を調べた。また、LPA投与後7日目に三叉神経節に侵害電気刺激(1 mA、5 ms、5 Hz)を与えた2時間後に動物を灌流固定し、脳を取り出し免疫組織化学法にてc-Fos陽性細胞の変化を観察した。投与後1日目、3日目、7日目いずれも 閾値の低下がみられた。対照動物およびLPA投与ラットではc-Fos陽性細胞数はそれぞれ三叉神経主感覚核(Vp)(3.0±2.4、18.9± 3.5)、吻側核(Vo)(18.3±7.8、55.9±6.7)、中位亜核(Vi)/尾側亜核(Vc)境界部(149.3±33.7、267.8± 21.4)、Vi(64.6±22.8、102.6±9.7)、VcI/II(181.4±59.7、301.5±80.3)、VcIII/IV (65.2±22.8、82.0±28.3)となり、Vp、Vo、Vi/Vcにおいて明らかなc-Fos陽性細胞の増加がみられた。よって、Vp、Vo、 Vi/Vcにおいて神経の活動が活発になり、延髄でのLPAの放出が神経因性疼痛に関与する可能性が示された。
演題6)「神経損傷ラットにおける三叉神経節への電気刺激が誘導する三叉神経感覚核の異常なc-Fos発現
下田隆史、酒井勇介:大阪大学大学院歯学研究科・高次脳口腔機能学講座、大阪大学大学院歯学研究科・顎口腔機能再建学講座
阿部徹也、杉生真一、吉田篤、竹村元秀:大阪大学大学院歯学研究科・高次脳口腔機能学講座
石垣尚一、矢谷博文:大阪大学大学院歯学研究科・顎口腔機能再建学講座
神経損傷後に損傷を受けたニューロンの支配領域だけでなく、損傷を受けていないニューロンの支配領域にも異常な感覚が起こることがある(神経因性 疼痛)。その中枢性メカニズムをさぐるため、神経損傷後の三叉神経節(TG)の電気刺激が誘導するc-Fos発現の様子を報告する。麻酔下にてラットの左 側下歯槽神経、眼窩下神経および咬筋神経を結紮後に末梢側を切断した。1週間の時間をおき、TGに電極を刺入し、C線維が活動する強度(1.0 mA、 5 ms、 5 Hz)で10分間刺激、2時間後に灌流固定し通法に従い橋/延髄の連続横断切片を作製、c-Fosを免疫組織化学法にて染色した。神経非切断対照ラットで はc-Fos陽性ニューロンは尾側亜核(Vc)の浅層部(VcI/II)に多くのc-Fos陽性細胞を認めるだけであった。神経切断ラットではいずれも閂 より上位の核、三叉神経主感覚核、吻側亜核、中位亜核では切断神経の投射領域に一致してc-Fos陽性細胞が多く分布した。切断神経の投射領域に一致して c-Fos陽性細胞が対照ラットに比べVcI/IIでは減少し、大細胞部(VcIII/IV)で増加した。切断神経の投射領域外ではVcI/II、 VcIII/IVでともに増加した。従って末梢神経の損傷にともない、中枢神経では損傷神経の投射領域だけでなく、投射領域外のニューロンの活動を変化さ せることが明らかになった。
演題7)「高浸透圧脳脊髄液による末梢有髄神経線維の活動電位伝達の部分的遮断
松香芳三:Division of Oral Biology & Medicine、 UCLA School of Dentistr、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 顎口腔機能制御学分野 前川賢治、窪木拓男:岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 顎口腔機能制御学分野 Igor Spigelman:Division of Oral Biology & Medicine、 UCLA School of Dentistry
脳脊髄液の正常値は290 mmol/kg前後であるが、糖尿病、腎障害、慢性アルコール依存など、種々の原因により、高浸透圧に移行する。体液浸透圧と慢性疼痛の関連性に関する報 告は、これまでほとんどなく、我々は、この浸透圧の上昇が慢性疼痛の原因の一つではないかと考え、研究を進めている。今回は脳脊髄液の浸透圧を上昇させた 場合の知覚神経活動電位伝達の変化を報告する。ラット後根神経節を後根・脊髄神経とともに摘出し、末梢側の脊髄神経を刺激し、中枢側の後根からの複合活動電位の記録および神経節細胞内の活動電 位の記録を行った。ブドウ糖、蔗糖、NaClなどにより、360 mmol/kgと高浸透圧にした脳脊髄液を潅流すると、触覚を伝達する有髄性A線維の複合活動電位が約20%減少したが、痛覚を伝達する無髄性のC線維に は変化はみられなかった。また、細胞内活動電位の記録では、高浸透圧によるA細胞の活動電位の消失が観察された。

脊髄後根において、末梢A線維の活動は疼痛抑制作用と関連があることが報告されており、脳脊髄液が高浸透圧に推移することにより、その抑制機能が 低下し、疼痛を伝達するC線維の情報が中枢に伝達されやすくなることが予測される。以上より、慢性的な体液の高浸透圧状態は慢性疼痛を誘発しやすいと考察 される。

この研究はWhitehall Foundation (F98-34)およびNIH(DE14573)からの研究助成を受けた。

演題8)「ラット内分泌調節における眼窩下神経結紮の影響」
矢ケ崎衣利子:松本歯科大学歯科補綴学第2講座
倉澤郁文:東京都老人総合研究所
新海正:東京都老人総合研究所
我々はBenettらの方法に従い、顎顔面領域の慢性痛が内分泌調節にいかなる影響を及ぼすか明にすることを目的として、ラット眼窩下神経の結紮 (CCI: Chronic Constriction Injury)モデルを用い、神経、副腎皮質の組織学的検索を行うとともに、視床下部-下垂体-副腎皮質系の活動変化の指標である血液中のコルチゾールと ACTHの濃度解析を行った。実験にはSprague-Dawleyラットを用い、コントロール群と眼窩下神経の結紮を行ったCCI群に分けて実験を行っ た。タッチテストフィラメントにて、眼窩下神経支配の顔面領域に一定の軽度の圧力をかけたときの反応によって行動を評価した。術後45日目には眼窩下神経 ならびに副腎皮質を摘出採取し、切片標本にし、HE染色を施し観察を行った。また、 ELISA法にて血漿中のコルチコステロン、ACTHの濃度測定を行った。タッチテストの結果、CCI群では、術後25~45日目において、コントロール と比較して後方に逃避した回数に増加傾向が認められた。組織標本では、結紮により副腎皮質索状層におけるコルチコステロンを含む液胞の数の増加とサイズの 増大が観察された。また、CCI群では血液中のコルチコステロン濃度はコントロールと比較して有意な低下が認められ、一方ACTH濃度はコントロールと比 較して有意な増減は認められなかったがACTH濃度の高い個体では副腎皮質機能の亢進像が認められた。
演題9)「下歯槽神経損傷モデル動物の三叉神経節に発現する発痛関連遺伝子の同定―DNAアレイによる解析-」
金銅英二:松本歯科大学総合歯科医学研究所顎口腔機能制御学部門生体調節制御学、松本歯科大学大学院顎口腔機能制御学講座
國分暁子、姫野勝仁、田中丈也:松本歯科大学大学院顎口腔機能制御学講座
島麻子、岩田幸一:日本大学歯学部生理学講座
【目的】

下歯槽神経損傷により三叉神経節細胞に発現する発痛関連遺伝子を同定することを目的とした。

【方法】

熱刺激装置や機械刺激による疼痛逃避行動試験により痛覚過敏が認められたSD雄性ラットを用い深麻酔下にて片側の下歯槽神経切断を行い術後3日の 三叉神経節を左右側分別摘出した。また切開のみのSham operationラットからも同様の方法で三叉神経節を摘出した。摘出した各三叉神経節を一・二枝と三枝支配領域に分離し、各組織からtotal RNAを抽出・精製しRT-PCRにてaminoallyl-dUTP導入したcDNAを作成、さらにCy-dyeとのカップリング反応にて蛍光標識し Agilent社のRat Oligo Microarrayにハイブリダイゼーション(60℃/17時間)をおこなった。スキャンニングはAgilent Scannerを用い画像から数値変換をおこなった。

【結果および考察】

ATF3やserin protease inhibitor、galanin、NPY、Ca2+ Channel、GAP43など多数の遺伝子発現が下歯槽神経損傷により変化することが明らかにった。この結果から下歯槽神経損傷により三叉神経節第二枝 領域に発症する異常疼痛にはこれら各種遺伝子が関与している可能性が示唆された。

演題10)「反復的電気刺激によるラット咬筋中のIL-6遺伝子発現の亢進
Ekectrical repetitive stimulation induces Interleukin-6 mRNA expression in rat masseter muscle.」
小野剛、前川賢治、藤澤拓生、上原淳二、窪木拓男:岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 顎口腔機能制御学分野
【背景】

過剰な筋活動後に引き起こされる筋痛発現の生物学的機序は未だ十分に解明されていない。近年、四肢の骨格筋における持続筋収縮が、筋組織中のIL-6の遺伝子発現量を亢進するという報告がされるなど、筋収縮時に生じる筋組織中での生物学的変化が解明されつつある。

【目的】

ラット咬筋を電気刺激する咬筋の筋活動モデルについて、筋組織中のIL-6の遺伝子発現を検討することによりその妥当性を検討する。

【方法】

6週齢の雄性ウイスター系ラット17匹を実験に供した。腹腔内麻酔を施した後、両側咬筋相当部に1cmの皮切を加え、咬筋を露出させた。双極電極 を両側咬筋筋膜に接触させ、左側のみ電気刺激(8V、10Hz、2ms)を加えた。ラットを3群に分け、刺激時間10分(5匹)、30分(5匹)、60分 (7匹)の3条件で刺激した。刺激終了直後、両側咬筋組織を摘出し、直ちに液体窒素で凍結させ、得られた筋組織よりtotal RNAwp抽出した。 IL-6遺伝子発現量はリアルタイムPCR法で定量した。各々の遺伝子発現量は内部基準であるCypAで除し、統計学的検定を行った。

【結果と考察】

刺激時間30分、60分の咬筋組織では刺激側IL-6の遺伝子発現が対照側に比べ有意に高かった。本研究で用いた方法により、過剰筋活動後に惹起される筋痛の分子生物学的メカニズムを検討できる可能性が示唆された。

演題11)「難治性歯痛患者に対する当院での取り組みの臨床学的検討
エンドドンティックスとペインクリニック的アプローチによるクリティカルパス構築を目指して」
坂本英治、椎葉俊司、仲西修:九州歯科大学生体機能科学専攻生体機能制御学講座歯科侵襲制御学分野 北村知昭、永吉雅人、矢野淳也、諸冨孝彦、陳 克恭:九州歯科大学口腔機能科学専攻口腔治療学講座齲蝕歯髄疾患制御学分野
【背景】

歯科を患者の多くは疼痛を主訴とし、多くは歯内治療で改善が認められる歯髄・根尖性疾患に由来する。当院保存科では、クリティカルパスをふまえた 歯内治療システムを導入した結果、歯髄・根尖性疾患の 90%以上はこのシステムにより症状が改善することを認めた。しかし改善をみない症例もあり、これらは単純に歯原性疾患に起因する症例だけでなく、様々な 非歯原性疾患から病態が複雑化していると考えられる。

【目的】

長期症状持続する患者の非歯原性要因とそれに対する治療効果を検討した。(対象)保存修復、歯周病科より長期治療を継続するが症状の改善をみない歯痛を呈する患者42名(男性8名、女性34名) が対象

【結果】

これらの患者は痛み(32名)、しびれ(2名)、浮いた感じなどの違和感(8名)その他(5名)などの症状を呈した。これら患者の内訳は、筋筋膜 痛症(33名)、心身医学的疾患(16名)、ニューロパシックペイン(8名)、中枢痛(2名)、三叉神経痛(3名)、帯状疱疹(1名)であった(重複あ り)。特に筋筋膜痛症を伴う33名中23名に圧痛点から疼痛部位への関連痛を認めた。これらに対してペインクリニック的な治療を行い、症状消失例が 12名、緩解例が24名、不変例が4名、増悪0名と多くに改善を認めた。

【まとめ】

難治性歯痛症例には多彩な要素をはらむことが多い。特に筋筋膜痛症による関連痛と心身医学的要素は考慮するべきである。

演題12)「難治性の咬合異常感を有して来院した患者群の臨床的検討」
三上紗季、松樹隆光、後藤田章人、三好貴之:北海道大学大学院歯学研究科顎機能医療学講座
岡田和樹、後藤田幸、真野靖崇:北海道大学病院高次口腔医療センター
山口泰彦:北海道大学大学院歯学研究科顎機能医療学講座、北海道大学病院高次口腔医療センター
小松孝雪:北海道大学大学院歯学研究科口腔機能学講座
佐藤華織:北海道大学病院歯科診療センター保存系歯科
井上農夫男:北海道大学病院高次口腔医療センター、北海道大学大学院歯学研究科口腔健康科学講座
歯科臨床において、何らかの咬合異常感に対して長期にわたり歯科的な対応がなされているにもかかわらず、症状が改善しないケースは少なくない。し かし、その実態に関する報告は意外と少ない。そこで今回は、そのようないわゆる難治性の咬合異常感を有する患者群の実態を明らかにすることを目的に、その 臨床的特徴について検討を加えた。対象は平成13年1月から平成17年3月までの間に咬合異常感を有して北海道大学病院高次口腔医療センター顎関節治療部門を受診した患者の中で、受診前に他院で6か月以上の歯科治療を受けたが症状の改善を認めなかった36名である。

性別は男性4名に対して、女性は32名と多く、年齢は 24~72歳で平均50.0±10.9歳と比較的高かった。病悩期間は6か月~18年(平均3年8か月)、当科の前に受診した他院の軒数は1~9軒(平均 2.8軒)であった。さらにこれらの患者の主訴の表現、発症契機、咬合状態、治療経過、他の疾患の関与等に関して得られた知見についても検討したので報告 する。

演題13)「平成16年度の当院口腔診断科におけるペインクリニック領域患者の受診動向」
坪井栄達、市川太、荒川幸雄、原和彦、阿部郷、篠崎貴弘、松浦信人、小池一喜、後藤實、今村佳樹:日本大学歯学部付属歯科病院 口腔診断科
【目的】

当院口腔診断科は平成15年度にペインクリニック部門の診療を開始した。今回、平成16年度1年間の当科へのペインクリニック領域患者受診動向を調査したので、報告する。

【結果】

平成16年4月1日から平成17年3月31日の間に口腔診断科を受診したペインクリニック領域患者数は99例(女性78名、男性21名)であっ た。診断名は、咀嚼筋群筋筋膜痛症候群が最も多く25例。ついで神経症ならびに精神疾患17例、三叉神経痛11例、ニューロパチー、歯原性歯痛、非定型顔 面痛(不明痛)がそれぞれ8例、神経血管性頭痛5例、粘膜疾患による疼痛、TMJDが共に4例、顔面神経麻痺3例、その他6例であった。患者が受診にい たった経緯別に見ると、開業医からの紹介41例、当院他科からの依頼33例、任意で受診した初診患者14例、他の病院からの紹介11例であった。

【結語】

当院口腔診断科を受診するペインクリニック領域患者は、現在のところ近郊の歯科医院や、院内からの紹介患者が主であり、自主的に当科を受診する患 者は初診数の14。1%に過ぎない。そして患者数の総数もマンパワーの不足から伸び悩んでいる。今後は当科の診療内容を学内外にアピールし、診断のついて いない歯科領域の疼痛をもつ患者に自主的に受診してもらえるよう検討すべきであろう。また、スタッフの教育、診療の合理化を図り、多数の患者に対応できる システム作りを行う必要があると考える。

演題14)「顎顔面の疼痛と口腔感覚の変調に関する臨床的観察」
成田紀之、木野孔司:日本大学松戸歯学部顎咬合機能治療学講座、東京医科歯科大学歯学部附属病院顎関節治療部
顎関節症・口腔顔面痛患者の疼痛症状は顎口腔顔面の運動機能ばかりか他の感覚機能をも障害すると考えられる。とくに疼痛とかかわる感覚障害として allodynia、hypesthesiaあるいはdysesthesiaなどが認識されるが、口腔感覚の変調、とりわけ噛み合わせ違和感 (occlusal discomfort)を顎顔面の疼痛症状とのかかわりから評価した報告はない。そこで、噛みあわせ違和感を訴えて来院した顎関節症/口腔顔面痛患者を対象として、顎顔面の疼痛強度の変化と噛み合わせ感覚の変調、とくに違和感の推移を臨床的に検討した。

対象は本学付属病院顎関節咬合科を来院した顎関節症/ 口腔顔面痛患者3例である。来院時に過去6ヶ月から現在までの顎顔面の疼痛強度ならびに噛み合わせ違和感の強度をVASにて評価し、その関連について考察 した。結果として、いずれの患者においても疼痛の発現ならびに疼痛強度の変化と噛み合わせ違和感の推移とに明らかな対応を認めた。これまでに‘噛み合わせ 感覚(occlusal comfort)’が顎関節の疼痛発現にともなって有意に低下することを報告している(IADR、 2005)。以上のことから、今回観察した疼痛発現ならびに疼痛強度の変化とよく対応した噛み合わせ違和感の発現は顎顔面部の疼痛がもたらす口腔感覚の変 調と考えた。

演題15)「抜髄後異常痛を再考する」
福田謙一、笠原正貴、西條みのり、松木由起子、村松淳、高北義彦:東京歯科大学水道橋病院歯科麻酔科・口腔顔面痛みセンター
半田俊之、一戸達也、金子譲:東京歯科大学歯科麻酔学講座
抜髄後、根管治療をいくら施しても執拗に痛みを訴える異常な痛みが存在する。このような歯痛を訴える患者が来院した時、神経因性疼痛なのか、疼痛 性障害なのか、根端部の器質的問題(副根管や根端の破折)またそれによる歯根膜炎なのか、関連歯痛(筋性、血管性)なのか、診断に苦慮することが多い。こ のような歯痛を早期に除痛するためには、痛みの原因を的確に診断することが重要である。我々は、これまでに様々な分析から打診痛の有無など、その診断の決め手や鑑別診断に関して報告してきた(第3回:幻歯痛の病態を考える、第4回:幻歯痛の診断を考える)。今回、診断に混迷した数症例を取り上げ、抜髄後異常痛の病態の分析とその診断に関して再考する。

演題16)「歯科総合外来患者における精神医学的検討―精神医学的な対応が必要な患者の特徴―」
池田龍典、玉置勝司、和気裕之、豊田 實:神奈川歯科大学 顎口腔機能修復科学講座
宮地英雄、宮岡等:北里大学医学部精神科
神奈川歯科大学附属病院の『かみ合わせ外来』は、主に咬合関連の主訴を有する患者を対象として2001年4月の開設以来、補綴科、保存科、口腔外 科、矯正科、放射線科の専門医による診断および咬合治療に当たってきた。しかし、治療中、治療後も自覚症状と他覚所見に乖離がある症例や対応が困難なケー スに直面する場合が生じてきた。そこで、2002年4月からは全患者に対して、心療歯科の専門医による精神医学的な面接を実施し、他の歯科的検査と合わせ た包括的な診断、治療システムによる患者対応を実施している。対象は2002年4月から2004年11月までの32ヶ月間に当外来で医学面接を実施した52例(男性8名、女性44名)で、年齢は平均51.1 歳(SD 12.9、24~72歳)である。方法は、歯科的基本検査を行った後、1992年から精神科医とのリエゾン診療を行っている共同演者(和気)が患者を面接 し、米国精神医学会の診断基準(DSM-IV-TR)による多軸診断を行った。

今回は患者の主訴、1軸診断(精神疾患)の有無、主訴に対する病悩期間、その間通院した医療機関の総数、自己記入式の日本版GHQ60精神健康調査票の結果などについて分析し、心身医学・精神医学的な対応が必要な患者の特徴について検討を加えたので報告する。

演題17)「舌習癖を伴う顎関節症への補綴的アプローチ」
藤澤政紀、左海孝昌、石橋寛二:岩手医科大学歯学部歯科補綴学第二講座
無意識下で行われる舌の異常習癖は顎機能障害の原因となり得ると言われている。このような異常習癖の原因としては、口腔内違和感、形態的・機能的異常に対する舌の代償的な働き、および精神的な要因があげられる。今回、我々は舌習癖に起因する顎機能障害を認めた2症例を経験したので報告する。

症例概要

症例1。患者は75歳女性。2001年5月に他院にて(7)65(4)(3) に離底型ポンティックを有するブリッジを装着。以来、ポンティック 下の空隙を舌で触れる習癖が生じ、その頃より右側の顎関節および咬筋から頸部に至る範囲の筋痛が出現した。症例 2。患者は72歳女性。2001年11月に他院にて 7を抜歯した。以来抜歯窩を舌で触れる習癖が生じたとのことであった。また、 56の欠損は未処置の まま放置されていた。同年12月になると顎関節雑音、開口障害が出現した。

治療経過ならびに考察

症例1では離底型ポンティック下の空隙を、症例2では7 相当部抜歯窩が口腔内の違和感の原因となり舌習癖が惹起されたものと考える。また両症例とも当科来院までの間、咬合調整およびスプリント装着を行うことで 咬合に対する治療は施されていたが、症状の変化は認められなかったことも共通している。症例1では船底型ポンティックのブリッジを装着したことにより、症 例2では (6)(7)(8)のブリッジおよび 56のパーシャルデンチャー装着によりいずれも舌習癖が改善された。

演題18)「咬み合わせ異常感と咬合状態、心理的因子との関連性
Analyses of occlusal status and psychological factors associated with occlusal discomfort」
羽毛田匡、木野孔司、雨森陽子、石川高行:東京医科歯科大学歯学部附属病院顎関節治療部
有留久美子、馬場一美:東京医科歯科大学大学院摂食機能構築学分野
【目的】

咬み合わせ異常感の有無と咬合状態、不安抑うつ、性格傾向との関連性を検討すること。

【方法】

被験者は、患者群として東京医科歯科大学歯学部附属病院顎関節治療部に、咬み合せの異常感を主訴として来院した患者10名、コントロール群とし て、東京医科歯科大学職員・学生21名を対象とした。各被験者に対して、オクルーザルレジストレーションストリップス引き抜き試験による咬合接触検査、デ ンタルプレスケールによる咬合力、咬合圧測定、自己記入式心理テストによる不安と抑うつおよび外向的・神経症的性格傾向の測定を行った。咬み合わせ異常感 の有無(患者群、コントロール群)を従属変数、咬合接触点、咬合力、不安抑うつ、性格傾向を独立変数とする多変量ロジスティック回帰モデルを構成した。

【結果と考察】

デンタルプレスケールによる咬合力は、咬み合わせ異常感の有無に有意に関連していた。測定した心理的因子は関連があるとはいえなかった。咬み合わせ異常感患者の診断治療において、咬合および心理的因子についてのさらに多面的な評価の必要性を示唆するものと考えられる。

演題19)「精神的ストレスと歯根膜外力認知閾値との関連」
沖和広、洲脇道広、岡本信、西川悟郎、皆木省吾:岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 咬合・口腔機能再建学分野
夜間ブラキシズムに伴う咬合力は歯周組織に為害作用を及ぼすほど過大なものであるにもかかわらず、就眠中に覚醒することなく生ずることが往々にし てみられる。したがって、夜間ブラキシズムを行う者の歯周組織、とくに歯根膜において外力に対する認知閾値の上昇が生じている可能性がある。夜間ブラキシ ズムの原因の一つとして精神的ストレスの関与が示唆されていることから、精神的ストレスによって歯根膜における外力認知閾値が増加しているのかもしれな い。本研究は、精神的ストレスと歯根膜外力認知閾値との関連を明らかにすることを目的とした。対象は健康成人9名とし、各被験者に対して心電図電極を装着 した。精神的ストレスは10分間の暗算負荷によって与えた。心拍変動の周波数解析は低周波成分LF(0.04~0.15Hz;交感神経および副交感神経活 性の指標)、高周波成分HF(0.15~0.40Hz;副交感神経活性の指標)およびLF/HF(交感神経活性の指標)に関して行った。周波数解析ならび に歯根膜認知閾値の測定は暗算負荷前後に行った。実験の結果、暗算負荷による精神的ストレスによってLFならびにLF/HFは有意な上昇を示し、歯根膜認 知閾値も同様に有意な増加を示した。加えて、LF/HFと歯根膜認知閾値との間には正の相関が認められた。本研究の結果から、精神的ストレスと歯根膜認知 閾値との間には密接な関連があることが示唆された。
演題20)「三叉神経支配領域の知覚閾値と痛反応閾値に対する精神的因子と身体的因子の影響」
岡本憲明、石垣尚一、森重恵美子、廣川雅之、中江佳代、矢谷博文:大阪大学大学院歯学研究科顎口腔機能再建学講座顎口腔咬合学分野
井上俊二:広島大学大学院医歯薬学総合研究科 展開医科学専攻 顎口腔頚部医科学講座
【目的】

三叉神経支配領域の知覚閾値ならびに痛反応閾値に精神的因子と身体的因子が及ぼす影響を明らかにすること。

【方法】

三叉神経支配領域の知覚閾値と痛反応閾値の測定にはNeurometerを用いた。実験に先立ち、Neurometerの信頼性を検討する目的 で、健常成人7名(男性5名、女性2名、25~35歳)を被験者とし、右側咬筋中央部の知覚閾値と痛反応閾値を測定し、日間変動の級内相関係数を求めた。 次に、健常成人80名(男性40名、女性40名、21~40歳)を被験者とし、 Symptom Check List-90-R、Multidimensional Pain Inventoryを利用して測定した精神的因子および年齢、BMI、睡眠時間の身体的因子と、Neurometerで測定した知覚閾値および痛反応閾値 との相関関係を検討した。解析にはSPSSR12.0Jを用いた。

【結果】

三叉神経支配領域の知覚閾値と痛反応閾値の日間変動の級内相関係数は0.6以上であり、Neurometerによる測定値の信頼性が確認された。 三叉神経支配領域の知覚閾値および痛反応閾値は、男性と比較して女性が有意に低かった(p<0.01)。女性においては、250Hz刺激時の知覚閾値およ び5Hzと250Hz刺激時の痛反応閾値と身体的因子の間に正の相関(BMI)および負の相関(年齢、睡眠時間)を認めた(p<0.05)。男性において は両因子ともにまったく相関を認めなかった。

【結論】

健常者群の三叉神経支配領域の知覚閾値および痛反応閾値は、女性においてのみ身体的因子に影響される可能性が示唆された。

演題21)「低出力レーザー照射前後における血管幅径と血流速度の変化について―カラードップラー血流計を用いた検討―」
槙原絵理、鱒見進一:九州歯科大学顎口腔欠損再構築学分野
福原正代:九州歯科大学総合内科学分野
槙原正人:槙原歯科医院
【目的】

顎関節症に対する理学療法の一つに疼痛軽減を目的とした低出力レーザー治療があるが、レーザー照射による疼痛軽減のメカニズムは解明されていな い。そこでまず我々は、サーモグラフィーを用いたレーザー照射前後における体表温度の変化について検討を行い、照射相当部体表温度は著明に上昇し、非照射 側においても著明な温度上昇が認められたことから、低出力レーザーを照射することにより血流量が増加し、それに伴い体表温度が上昇することが推察された。 そこでこの仮説を証明するため、今回はドップラー血流計を用いて、照射側・非照射側のCO2レーザー照射前後における血管幅径および血流速度変化の観察を 行った。

【方法】

被験者の右側顎関節部にCO2レーザーを10分間照射し、照射側および非照射側における照射前、照射直後、照射後10分の浅側頭動脈の血管幅径、血流速度をカラードップラー血流計を用いて観察した。

【結果】

CO2レーザー照射により、照射側、非照射側ともに照射直後および照射後10分における血管幅径および血流速度は照射前と比較して増加する傾向が認められた。

【考察】

低出力レーザー治療を行うことにより、疼痛部位のみならず周囲の血流量を増加させ、それに伴う体表温度の上昇や疼痛物質の拡散が起こり、疼痛軽減 が生じていると考えられた。また、非照射側の血流変化もみられたことから、中枢を介した身体生理学的反応が惹起されたと思われる。

演題22)「新規貼付型ブラキシズム診断装置の診断精度に関する研究-Polysomnogramとの比較-」
水口一、前川賢治、窪木拓男:岡山大院、医歯学総合研究科顎口腔機能制御学分野
Glenn T. Clark:南カリフォルニア大歯学部 診断科学分野
【目的】

ブラキシズムの診断法は、従来歯質の咬耗や主観的評価によるものであり、その信憑性は常に疑われてきた。

現在ではPolysomnogram (PSG)検査による睡眠時の咀嚼筋活動の測定が黄金律とされているが、PSG検査でさえその睡眠環境の違いや測定機器により平常の睡眠状態を反映していないと言われている。

今回、家庭で簡便にブラキシズム検査が行える超小型ディスポーザブルブラキシズム測定装置が開発された。そこで本研究では、本装置の閾値の設定ならびに検査結果の妥当性をPSG検査と比較して検討した。

【方法】

対象は、睡眠時ブラキシズムを自他覚的に認める健常者10名である。これらの被検者を無作為に2群に分け、それぞれ咬筋筋活動の測定を含む就寝時 PSG検査と並行して、咬筋皮膚上に BiteStripRを貼付しブラキシズム回数を同時計測した。その後、PSG結果を黄金律とし、任意に設定した筋活動量閾値(最大噛みしめ量[MVC] の40%、30%、20%)を用いて、BiteStripRの感度、特異度が最も高くなる測定閾値の検討を行った。また、第2世代BiteStripに先 述の測定閾値を適用し、同様の方法で感度、特異度の検討を行った。

【結果と考察】

第1世代BiteStripRのブラキシズム検出感度は中等度(0.55-1.00)であり、軽度の症例(BiteStripRで15イベント以 下)を除いた場合、最も高い感度、特異度の組み合わせはMVCの40%を閾値とした場合であった(感度:0.63、特異度:0.73)。この測定閾値を適 用した第2世代BiteStripの感度、特異度はそれぞれ0.92、0.91と非常に高い信頼性を示した。

演題23)「胃酸分泌抑制剤の服用が睡眠時のブラキシズムの頻度に及ぼす影響」
荒木佳子、谷本裕子、片山朗、今井美香子、橋本隆志、山本照子:岡山大学大学院医歯薬学総合研究科顎顔面口腔矯正学分野 宮脇正一:鹿児島大学大学院医歯学総合研究科健康科学専攻発生発達成育学講座顎顔面育成学分野
【目的】

最近、我々はブラキシズムと胃食道酸逆流との間に密接な関連性があることを報告し、胃酸分泌抑制剤の1つであるproton pump inhibitor(PPI)の服用後、夜間のブラキシズムの頻度が減少することを報告した。しかし、消化器内科において、胃食道酸逆流症の治療に用いら れているH2受容体阻害剤(H2RA)のブラキシズムの頻度に対する効果についてはこれまで十分調べられていない。本研究の目的は、睡眠時のブラキシズム の頻度に対するこの2種類の胃酸分泌抑制剤の効果について比較検討することである。

【資料および方法】

12名の成人健常者を被験者とした。偽薬、PPI、H2RAあるいはPPIとH2RA 両方を服用させ、睡眠時の咀嚼筋活動と顎顔面運動を記録した。薬剤の服用順序はランダムに決められた。正規化筋活動量とビデオ画像データを用いて、 Lavigneらの研究用診断基準に基づきブラキシズムエピソードをスコアリングした。正規性の有無に応じて、被験者内の比較にはpaired t-testまたは Wilcoxon rank sum testを用いた。

【結果および考察】

PPIとH2RAの両方を服用した場合のブラキシズムエピソードの頻度が最も低く、次いでPPI単独服用後、H2RA服用後、偽薬服用後と続い た。PPIとH2RAの両方を服用した場合およびPPIを服用した場合のブラキシズムエピソードの頻度は、偽薬服用後のそれよりも有意に低かった。 H2RA単独服用後のブラキシズムエピソードについては、PPIと同様の傾向が認められたが、偽薬服用後との間に有意の差を認めなかった。

【結論】

消化器内科学的にはPPIとH2RAはともに胃食道酸逆流症の治療薬として用いられているが、ブラキシズムの頻度を減少させるためには、H2RA単独の服用は効果が低く、PPIの服用は効果が高いことが示唆された。

演題24)「前歯部開咬患者の咬合力と下顎頭運動」
片山朗、谷本裕子、荒木佳子、今井美香子、橋本隆志、山本照子:岡山大学大学院医歯薬学総合研究科顎顔面口腔矯正学分野
宮脇正一:鹿児島大学大学院医歯学総合研究科健康科学専攻発生発達成育学講座顎顔面育成学分野
窪木拓男:岡山大学大学院医歯薬学総合研究科顎口腔機能制御学分野
【目的】

これまで、開咬患者は咬合力が低いことや顎関節内障ならびに変形性関節症が多く認められることが報告されている。また、咬合力の低さや変型性関節 症によって開咬が生じるとする仮説もある。もしも、低い咬合力や顎関節疾患が開咬の主な原因であるならば、多くの開咬患者は子供も成人も低い咬合力ならび に顎関節疾患を呈していると考えられる。本研究は、前歯部開咬を呈する前思春期及び成人期の患者の咬合力、下顎頭の運動範囲および顎関節について調べ、前 述の仮説の妥当性について検討することを目的とした。

【資料および方法】

前歯部開咬を呈する前思春期の女性患者13名と成人女性患者13名を開咬群とし、年齢や性別を開咬群とほぼ一致させた前思春期の正常咬合を呈する 女性14名と成人女性14名を対照群として用いた。成人患者は全て幼少時より前歯部開咬を呈していた。開咬群において、下顎の明らかな偏位のある者は被験 者から除外された。はじめに、成人被験者の顎関節内障の有無をMRIを用いて診断した。次に、咬合力咬合接触面積記録システムを用いて、最大咬合力と咬合 接触面積を測定した。最後に、6自由度顎運動記録解析システムを用いて、最大開閉口運動時と最大噛みしめ時の下顎中切歯点と左右下顎頭点の最大変位量を算 出した。以上のパラメータについて、開咬群と対照群間の統計学的比較検討を行った。

【結果および考察】

成人の開咬群では、対照群と比べて、顎関節内障の罹患率は有意に高い値を示し、咬合接触面積、咬合力、最大開口量および最大開閉口時の下顎頭の最 大変位量は、有意に小さな値を示した。中心咬合位から最大噛みしめ時までの下顎頭の最大変位量については、両群間に有意の差を認めなかった。前思春期の開 咬群では、対照群と比べて、咬合接触面積は有意に小さな値を示したが、咬合力、最大開口量および最大開閉口時の下顎頭の最大変位量、中心咬合位から最大噛 みしめ時までの下顎頭の最大変位量全てにおいては両群間に有意な差を認めなかった。

【結論】

低い咬合力や顎関節疾患が開咬の主な原因ではない可能性が示唆された。

演題25)「睡眠時のブラキシズムと体位に関する自覚の有無の信頼性」
今井美香子、谷本裕子、湊雅直、荒木佳子、片山朗、橋本隆志、山本照子:岡山大学大学院医歯薬学総合研究科顎顔面口腔矯正学分野
宮脇正一:鹿児島大学大学院医歯学総合研究科健康科学専攻発生発達成育学講座顎顔面育成学分野
窪木拓男、永松千代美、小野 剛:岡山大学大学院医歯薬学総合研究科顎口腔機能制御学分野
皆木省吾、沖 和広:岡山大学大学院医歯薬学総合研究科咬合・口腔機能再建学分野
柳 文修、村上 純:岡山大学大学院医歯薬学総合研究科顎口腔放射線学分野
【目的】

ブラキシズムエピソードはほぼ全ての者に認められ、特にブラキシズム患者では高頻度で認められることが知られている。睡眠時のブラキシズムはしば しば自覚の無い場合がある。また、睡眠時の異常な姿勢や体位である睡眠態癖が不正咬合の原因であるとの報告があるが、睡眠時の体位等は問診によるものが多 く、信頼性は不明であった。本研究の目的は、睡眠時のブラキシズムおよび体位に関する自覚の有無の信頼性を検討することである。

【資料および方法】

成人30名に対して、睡眠時のブラキシズムの有無および睡眠時の主な体位について問診した。そして、被験者の自宅にて咀嚼筋活動、顎顔面運動およ び体位の記録を行い、ブラキシズムエピソードのスコアリングと全睡眠時間に占める各体位の割合を求めた。ブラキシズム癖が有ると回答した者(ブラキシズム 自覚群)と無いと回答した者(ブラキシズム非自覚群)との間に、ブラキシズムエピソードの頻度に差があるかどうかを統計学的に比較検討した。また、睡眠時 に決まった体位が有ると回答した者(体位有群)と無いと回答した者(体位無群)において、全睡眠時間に占める各体位の割合と回答した体位の全睡眠時間に占 める割合を求め、統計学的に比較検討した。

【結果および考察】

ブラキシズムエピソードの頻度について、ブラキシズム自覚群と非自覚群との間に有意差はなかった。全睡眠時間に占める各体位の割合について、体位 有群と体位無群における体位はほぼ同様の割合を示しており、両群間に有意差はなかった。体位有群において回答された体位は全睡眠時間の約30%を占めるの みで、約70%は回答した体位以外が占めていた。

【結論】

睡眠時のブラキシズムと主な体位について、自覚の有無の信頼性は非常に低く、睡眠時動態に関する評価には、生体信号に加えてビデオ画像データを用いることが必須であることが示唆された。

演題26)「金属アレルギーによる扁平苔癬に左側咀嚼筋々膜痛を併発した1例」
市川太、荒川幸雄、坪井栄達、原和彦、今村佳樹:日本大学歯学部付属歯科病院口腔診断科
下顎右側臼歯部頬側歯肉および頬粘膜の金属アレルギーによる扁平苔癬に、左側咀嚼筋々膜痛を併発した1例を経験した。

【症例】

60歳 女性

患者は平成14年に下顎左側臼歯部の?痒感を訴え某歯科を受診。下顎左側第2大臼歯の歯冠修復処置を行ったところ、胸部圧迫感、肩および背中に疼 痛が発現した。修復物を除去したところ、症状は軽快したものの下顎左側臼歯部痛が持続し、平成15年12月、下顎左側第2大臼歯の抜歯を受けた。しかし下 顎左側臼歯部痛は消退せず、平成16年2月、下顎左側智歯の抜髄処置を受けたが、症状の改善はみられなかった。また、その後下顎右側臼歯部の歯冠修復処置 を受けたところ、下顎右側臼歯部に「しみる痛み」が発現した。

平成16年9月、下顎左側臼歯部痛を主訴に当科を受診。「左側咀嚼筋々膜痛」の診断のもとトリガーポイント注射を行い、左側の筋症状とともに下顎 左側臼歯部痛は軽快したが、却って下顎右側臼歯部痛が増強した。視診にて、下顎右側臼歯部頬側歯肉および頬粘膜に白斑、糜爛がみられ、皮膚科にてパッチテ ストを施行したところ、「金属アレルギー」が認められた。粘膜病変は生検にて「扁平苔癬」と確定診断が得られた。その後、上顎右側臼歯部の歯冠補綴物を除 去し、症状は軽快傾向にある。また、初診時の主訴であった下顎左側臼歯部痛は、現在ほぼ完治している。

【考察】

今回の症例では、当科初診時、主訴が「下顎左側臼歯部痛」であり、下顎右側臼歯部病変に留意していなかった。しかし、金属アレルギーの原因となっ ている歯冠補綴物の除去により、粘膜病変だけでなく、筋痛の消退が認められた。その背景には、金属アレルギーに伴う粘膜病変への不安があったものと考えら れた。初診時の慎重な診査・診断が重要と考えられた。

演題27)「筋性非歯原性歯痛に対するトリガーポイントインジェクションによる診断と治療」
中山貴博、和嶋浩一、村岡渡、池田浩子、中川種昭:慶應義塾大学医学部歯科口腔外科学教室
非歯原性歯痛のなかで最も多い原因は筋・筋膜疼痛、いわゆるトリガーポイントによる関連痛である。このトリガーポイントに対して局所麻酔を行うトリガーポイントインジェクションの診断および治療における有用を検討した。非歯原性歯痛の診査のなかで、疼痛部とは離れた筋の触診を行うと、強い圧痛が認められると共に当該の歯痛が増悪する場合がある。この診査により患 者の訴える歯痛が筋・筋膜疼痛性の非歯原性歯痛であると考えられる。しかし、患者はメカニズムが理解できないため、この診断に納得しないことが多い。そこ で、診断を確定することと患者に納得してもらうことを目的に、トリガーポイントをねらって局所麻酔薬を注射する。局所麻酔注射によって当該歯痛が消失する ことによって診断が確定される。それまで遠隔部位が歯痛の原因であるとの説明に納得できなかった患者も痛みの消失によって原因が理解できるようになる。こ のことはその後の治療の動機づけにも重要である。

トリガーポイントの治療法として原因療法として認知行動療法を指導し、対症療法として理学療法を行っている。トリガーポイントインジェクションは 治療としても有用であるが、治療の初期に行っても完全寛解は得られないことが多く、原因療法として認知行動療法の指導、対症療法として理学療法を行った後 にトリガーポイントが頑固に残存する場合に行うのが効果的である。

演題28)「舌咽神経痛様症状を呈した茎状突起過長症の2例」
村岡渡、和嶋浩一、池田浩子、大塚友乃、朝波惣一郎、中川種昭:慶應義塾大学医学部歯科口腔外科学教室
茎状突起過長症は、首の回転や嚥下などの運動時に過長部が周囲にある神経を陥罠(エントラップメント)して刺激することによって痛みを生じると考えられている。今回われわれは、舌咽神経痛様症状を呈した茎状突起過長症を2例経験したので報告する。

【症例1】

35歳、男性 主訴:右顎角部の激痛 現病歴:数年前より右顎角部にときどき疼痛を認めていた。2004年2月16日頃から症状が悪化。19日に は、開口時、咬合時、嚥下時に刺すような激痛を生じるようになり当院の夜間救急外来を受診した。画像所見にて茎状突起過長症と診断された。

【症例2】

67歳、女性 主訴:嚥下時痛 現病歴:2002年、左下顎骨腐骨摘出術の後に下唇知覚鈍麻および求心路遮断性疼痛、シェーグレン症候群にて DryMouth。同年7月頃より、嚥下時にときどき左顎角部の疼痛を生じたが数週間で消失。2005年1月頃より嚥下時の激痛が頻回に生じるようになっ た。精査目的の画像所見にて茎状突起過長症と診断された。

2症例ともに嚥下時に発作的に鋭利痛が生じ、激痛のため食事困難となっていた。茎状突起過長症による舌咽神経痛様疼痛の発症のメカニズム、診断および治療について考察する。

演題29)「SUNCT症候群の1症例」
椎葉俊司、坂本英治、坂本和美、大津ナツミ、長畑佐和子、吉田充弘、仲西修:九州歯科大学生体機能科学専攻生体機能制御学講座歯科侵襲制御学分野
【はじめに】

SUNCT症候群とは結膜充血、流涙を伴う短時間持続性の片側神経痛様頭痛発作である。今回、われわれはSUNCT症候群患者の治療にリドカイン静脈を行ない良好な結果を得たので報告する。

【症例】

患者は56歳、男性。職業は運転手。既往歴は三叉神経痛、外傷性硬膜外血腫、突発性難聴があった。主訴は右側前頭部の灼ける様な拍動痛で発作持続 時間は数秒から数十秒で、間隔は数秒から数分であった。発作には結膜充血、流涙、鼻汁、縮瞳、眼瞼浮腫の自律神経症状を伴い、起立、歩行、咀嚼、会話、運 転などの運動によって誘発される傾向があった。勤務時間帯が深夜に代わったことを契機に発作が増強したため当科を受診した。

【治療】

星状神経節ブロック、眼窩上孔ブロック、耳介側頭神経ブロック、トリガーポイントブロックの神経ブロック療法を行なったが効果はなかった。薬物療 法として4種類のトリプタン製剤の経口投与、スマトリプタン注射薬、テグレトール、アミトリプチリン、インドメタシン、バクロフェン、プレドニゾロンの投 薬、酸素吸入を行なったがいずれも十分な効果はなかった。以前よりわれわれは片頭痛、群発頭痛、三叉神経痛の治療にリドカイン静注を行なって良好な結果を 得ていた。そこで本症例にリドカイン静注を行なったところ発作が消退した。

【結論】

あらゆる治療に抵抗性を示すSUNCT症候群の治療法としてリドカイン静注が有効である可能性がある。

演題30)「三叉神経痛様の疼痛を呈したが、心理的問題の関与が強く身体表現性障害を疑った1症例」
築山能大、山田昭仁、市来利香、古谷野潔:九州大学大学院歯学研究院口腔機能修復学講座咀嚼機能再建学分野
当科初診時に筋・筋膜痛に加えて三叉神経痛様の疼痛を呈し、その後脳神経外科において三叉神経痛と診断されたものの、典型的な臨床症状を呈さず心理的問題の関与が強く推察されたため、身体表現性障害を強く疑った症例を経験したので報告する。

【症例】

56歳、女性。当科初診の2か月前、洗顔時に右側顔面部(眼窩下部)に針で刺されたような痛みが出現したため、病院歯科を受診。その後、内科、脳 神経外科、耳鼻科を受診するも原因は特定されなかった。 1か月前、上顎右側切歯部のクラウンが脱離したため、大学病院口腔外科、歯科麻酔科を受診。筋痛を指摘されるも、右側顔面部の疼痛については確定診断がで きなかった。歯の修復の必要性、および患者の都合により、当科を紹介、受診。神経学的検査にて知覚異常なし。左右側側頭筋、左側咬筋、左側胸鎖乳突筋に圧 痛があり、筋・筋膜痛の典型的な症状を呈していた。一方、右側顔面部の触診による誘発痛は鈍痛を呈した。診察により訴えに見合う異常所見はみあたらなかっ た。強度の不安があり(STAI:特性不安=48、状態不安=48)、うつ病も疑われた(SDS=49)。その後、脳神経外科で血管造影+MRI検査を 行ったところ、血管による三叉神経の圧迫が観察され「三叉神経痛」と診断された。しかし、典型的な臨床症状を欠き、心理的問題の関与が強く推察されたた め、当科では「身体表現性傷害」を疑った。